美しく紡がれる三つ編みの絆の物語【ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 – 永遠と自動手記人形 -】

2020年10月10日

数えきれないほどの名言、名曲、名シーンを生み出してきたヴァイオレット・エヴァーガーデンの劇場版外伝作品、ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 – 永遠と自動手記人形 –

京アニの映像を通した心情描写といえばリズと青い鳥ですが、ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 – 永遠と自動手記人形 -もまた劣らず深みある繊細な心情描写がとても素敵です。

深窓の奥で語られる絶望と絆の美しき物語

まず外伝 – 永遠と自動手記人形 – のあらすじを軽くご紹介。

全体としてはヴァイオレットがイザベラ・ヨークの教育係として交友を深める前半と、ヴァイオレットを訪ねたテイラーが絆を確かめる後半に分かれます。

ヴァイオレットは大貴族の娘、イザベラ・ヨークの教育係として深窓の令嬢が集う全寮制の女学校へ赴くことに。

ヴァイオレットはイザベラに拒絶されながらも心を通わせ、イザベラが父親との契約で捨てた少女テイラーの存在と過去を知る。

自身にとって唯一の大切な存在を、愛していたからこそ手放すしかなかった無力と絶望を語るイザベラ。

ヴァイオレットは自動手記人形・ドールとして、イザベラに手紙の代筆を申し出る。

数年後、古びた手紙を片手にヴァイオレットを訪ねる少女の姿があった。

三つ編みに結われる、不器用ながらも美しい絆

ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝作中で特に注目したいのが、自力では維持できなかったイザベラとテイラーの絆を友情と手紙によって両者を結びつけるヴァイオレットの関係性です。

そのbd関係性を象徴するのがヴァイオレットがテイラーの髪を三つ編みに結ってやるシーン。

テイラーは朝の支度をするヴァイオレットをまねて自身の髪を結おうとしますが、孤児院育ちでこれまで髪など放置状態だったテイラーには髪の結い方などわからず、ただ髪を両手で掴んでぐるぐる巻くだけ。当然、手を離すとすぐほどけてしまいます。

そこにヴァイオレットが声をかけます。

「 二つではほどけてしまいますよ 」

「 三つを交差して編むと、ほどけないのです 」

ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 – 永遠と自動手記人形 – 本編より
©暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会

そしてテイラーの髪に丁寧にブラシをかけ、三つ編みに結ってやる。

これこそ、ヴァイオレットの存在が2人の絆を結ぶことを表す象徴的なシーンです。

絶望するほど大事に思いながらも失われた2人の絆が、同じくもとは孤児だったヴァイオレットと交差することで再び結ばれたのです。

と同時に、ヴァイオレットの成長が示唆されるシーンでもあります。第一話では他人の気持ちなど1ミリも察することができず、慣れない義手のせいでまともに手紙(報告書?)も書けなかったヴァイオレットが、テイラーを見て「 三つ編みにしたいんだ 」と気づき、しかも義手で複雑な動きをこなして見せる。

何気ない日常の一場面ですが、他人の想いに触れてきたヴァイオレットの成長がこれ以上ないほどによくわかるシーンです。

このシーンが美しいのは隠喩的表現だけではなく、単純に映像としてとてもキレイです。ヴァイオレットの義手で形を変えていく少女の髪。その指一本一本の動き、髪の束ひとつひとつの動き。

光沢のある金属製の指が、テイラーの髪をたぐる工程と、三つ編みが出来上がるさま。これを描いて『 見せる 』技術が尋常ではない。私のような素人にもわかる圧巻の仕事です。

また、髪を結われるとき、テイラーが座った椅子の下で浮いた足を交差させて持ち上げているカットが入ります。どこか緊張したようなその小さな仕草も『 静 』の表現としてきいている。小さな動きで繊細な心を表す素晴らしいカットです。

余談。本作ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝には、このシーン以外にも髪を結ったり結われるシーンがあります。

なかにはあろうことか、ヴァイオレットがツインテールになるシーンも。さらにそこからスターウォーズのレイア姫風の髪型も……

あのう、ヴァイオレットさん頭にパンついてますよ!

今後の展開を意識させるルクリアの再登場

本作 永遠と自動手記人形は外伝と名打つだけあって、新展開や新情報など特にストーリー進展はありません

が、作中にヴァイオレットの今後を意識させるなシーンが。

作中、アニメ本編でヴァイオレットと自動手記人形育成学校の同期だったルクリアが登場するのです。

ルクリアはヴァイオレットがはじめて「 愛を伝える手紙 」を代筆した相手であり、ドールとして人の想いをくみ取ることに目覚めるきっかけとなった恩人でもあります。

「 愛してる 」をわかりはじめたヴァイオレットが向かう先

郵便社にもどったヴァイオレットは、同僚ドールたちとの会話でルクリアが結婚したあとも引退せずドールを続けることや、同僚たちがそれぞれ夢に向かって邁進していることを知ります。

みんな「 ドールを続ける先 」を持っている。ヴァイオレットの傍らにいるテイラーも、まだ子どもながら郵便配達人として幸せを届ける仕事をしたいと夢を追っている。

しかし、当のヴァイオレット自身は少佐との辛い離別から数年が経ち『 愛してるも、少し、分かる 』ようになったいまでも、その先はまだ見えていません。

そんな折、初めて想いのこもった手紙を代筆したルクリアや身近な同僚ドールたちが抱く『 その先 』に触れ、ヴァイオレット自身も少なからず『 自分のその先 』も意識したのではないでしょうか。

彼女が少佐抜きで「 愛してる 」を完全に理解する日が来るかもわからないし、その日がきたとして、ヴァイオレットがその後どうしたいかも特に決まっているわけではない。

これまで数々の想いと愛を届けてきたヴァイオレット自身には、どんな『 その先 』が待っているのか。

本編の続編となる劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデンが待ちきれない!

残念ながら、2020年4月24日公開予定だった続編の劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデンは新型コロナウィルスの影響で公開再延期に。

新型コロナウィルスによる映画の公開延期はなにもヴァイオレット・エヴァーガーデンに限ったことではありませんが、実のところ劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデンの延期はこれで二度目なんですよね。

2019年の京都アニメーション放火事件のせいですでに一回延期されて2020年4月だったのに、さらに再延期です。

許すまじ凶行、許すまじコロナ。

まとめ:ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 – 永遠と自動手記人形 –

ちなみに本作ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝の監督を務めた藤田春香さんにとって初監督作とのこと。

しかし調べてみたらアニメ版の複数話で絵コンテ・演出にクレジットされた方。しかもアニメの最初の第1話~第2話と、最後の第11話~第13話という重要どころで絵コンテや演出を担当した方。

もともとヴァイオレット・エヴァーガーデンの基盤に深く触れていらっしゃる方、さすがとしかいいようのない世界観の表現です。

両目の奥の方からじんわりと温めてくる優しいエピソードもヴァイオレット・エヴァーガーデンらしい、とてもよい劇場版作品でした。