白銀の墟 玄の月で妖魔が出てこない理由【十二国記考察】

2020年2月21日

白銀の墟 玄の月の第二巻まで読んで、誰もが突っ込みたくなった事象。

超有能なアサシン、僧侶、商人がパーティー入りしたうえ、結局妖魔には一度も遭遇しない

角のない麒麟と隻腕の女将軍による超ハードモードな旅がはじまるかと思いきや、意外にも障害は少なめ。

白銀の墟 玄の月戴で妖魔がほぼ出てこない理由、考察してみました。作品展開の都合上で描かれていないだけなのか、内陸部の妖魔は玉泉の玉でお腹いっぱいなのか、はたまた……

考えすぎと言われそうだけど考えずにはいられない。疑えと囁くのよ、私のゴースト(蒼猿)が。

本記事では事前公開された白銀の墟 玄の月 第三巻のアオリ文とあらすじをもとに考察しています。

そのあらすじ部分で新事実が発表されており、公式ながら若干ネタバレくさい。

公式情報にしても事前のネタバレなしで白銀の墟 玄の月 第三巻・第四巻を楽しみたい!って方は本記事はスルーでお願いします。

びっくりするほど出てこない妖魔と戴の現状

十二国記白銀の墟玄の月第一巻、第二巻表紙

新潮社十二国記公式ページより ©小野不由美 / 新潮社

第一巻と第二巻で描かれた限り、意外と妖魔の出ない戴。

結論からいえば、実は戴は妖魔が湧きまくるほどは傾いていない状況

そして垂州を中心に沿岸部に出ている妖魔は国の傾きで湧く野生の妖魔ではなく、何者かの意志で戴を封鎖するために集められたもの

と考察します。

戴は玉の産地、各地にある地中の玉がおいしくてあまり人を襲う必要がないなんて説もちょっと可愛くて(?)すきだけれど。

一応、回生の父は妖魔に殺されたとされているし、妖魔の手にかかって散った家族の血の跡そのままに暮らしつつけている民の姿もあり、結構えぐい妖魔の被害自体は語られています。

しかし李斎たちの旅では妖魔自体一度も姿を見せていません。黄昏の岸 暁の天で窮状を訴えた李斎の言とは大違い。

確かに白銀の墟 玄の月で描かれた戴の現状は決して楽観視できない状況です。しかし荒廃は妖魔や天災とは関係なく、阿選の誅伐で発生した荒民と施政の放置による生活難がほとんど。経済と政治の問題です。

見た限り特別天災が起きているわけでもなさそうだし、少なくとも李斎らの旅においては妖魔っこ一匹見かけていません。

鳩が妖魔なら説明がつく

実は事前公開された白銀の墟 玄の月 第三巻のアオリ&あらすじ部分で、戴の現状には妖魔が関わっていることが明言されています。

驍宗様が身罷られたなど信じない。新王が立つなら、それは麒麟の過ちか。──角なき麒麟の決断は。

李斎(りさい)は、荒民(こうみん)らが怪我人を匿った里(まち)に辿り着く。だが、髪は白く眼は紅い男の命は、既に絶えていた。驍宗(ぎょうそう)の臣であることを誇りとして、自らを支えた矜持は潰えたのか。そして、李斎の許を離れた泰麒(たいき)は、妖魔によって病んだ傀儡(くぐつ)が徘徊する王宮で、王を追い遣った真意を阿選(あせん)に迫る。もはや慈悲深き生き物とは言い難い「麒麟」の深謀遠慮とは、如何に。

新潮社 公式ページ 書籍詳細:白銀の墟 玄の月 第三巻 十二国記より

今回重要なのは白圭宮内で官吏らを傀儡にしているのは妖魔の仕業って部分。

白銀の墟 玄の月で登場した鳩の声の正体は妖魔ってわけです。立場の高い者ほど阿選に翻りやすかったのは鳩の妖魔が白圭宮や州城内など高官が住む場所を中心に棲み着いたからなのでしょう。

白銀の墟 玄の月作中でいうほど妖魔が現れていない点も、傀儡を作っている妖魔がいることから説明できます。

ただの妖魔がそう簡単に一国の王宮に入り込めるとは考えられません。鳩の妖魔が白圭宮にいるのは何者かの思惑によるものか、妖魔自身がよほどの大物かのどちらかでしょう。

垂州沿岸部に出た妖魔は野生の妖魔ではない?

黄昏の岸 暁の天で明かされた通り、特に垂州沿岸部には多くの妖魔が出ていることは事実。戴の荒民を運んだ船も目撃しているし、そうでなければ李斎が利き腕を失くすこともなかったはずですから。

とはいえ、白銀の墟 玄の月で描かれた状況ともえらく違うのもまた事実。

この矛盾は、戴の沿岸部に湧いた妖魔は国が傾くと湧いて出る野生の妖魔ではなく、何者かの意志によって集められた妖魔だから、と考えることができます。

白圭宮で傀儡を作っている鳩の妖魔がいる以上、その鳩の妖魔自身か背後にいる何者かの意志で妖魔が動くことはあり得ます。口に出すのも畏れ多いことですけど、麒麟の使令とか。

で、その妖魔らは他国の干渉や戴からの脱出を阻むために沿岸部に集められ、戴を封鎖している。

そう考えれば、戴の内陸部を旅した李斎らの目の前にはびっくりするほど妖魔が出てこないのもうなずけます。実は戴は野生の妖魔そこまで出るほど傾いてないのです。

もしこの考察が真としたら、王が施政を投げだし沿岸部に妖魔が湧いて出た柳の傾き方も戴と同じ状況なんですよね。

鳩は伝書鳩として利用することもあるほどの飛行能力を持つ鳥。虚海を挟んで向こうの柳にも巣を作った……?

考えてみれば、戴は空位でもないし、民の苦しみも阿選の簒奪に原因であり、驍宗自身が圧政をしいているわけではない。

結果としては戴の民も苦しんでいるので、阿選の簒奪が是正されず続けば、戴も傾いていずれはもっと荒廃が進むことでしょう。しかし天が教条的ならなおさら、まだ戴がそこまで傾く理由もないと考えることもできます。

考えてみれば、他国の偽王を援助し麒麟に人殺しを命じて失道した巧ですら、塙王が崩御するまではさほど極端に傾いてもいませんでした。一気に傾いたのは塙王が崩御してからです。道中陽子を襲った妖魔にしたって大半は塙麟の使令だったっぽいですし。

実態として、戴は妖魔がそこらに湧きまくるほど傾いていない可能性は考えられます。あとは戴では各種祭祀が行われていない点が気になるところ。特に冬至の祭祀は王が妖魔と地を鎮めるものとされるので、そこが天意にどこまで影響があるかによっても解釈が分かれそうです。

柳の状況も戴と同じ?

無気力な阿選を見て全十二国記ファンの人が思ったであろう想い。

柳の劉王が政治に興味を失くしてるのも阿選と同じ?

白圭宮を徘徊する傀儡や阿選の無気力が王宮に棲みついた妖魔によるものなら、劉王も同じ状況と見てもよさそう。

さらにいえば妖魔が沿岸部に集中し内陸部では見かけない点も柳と戴とで共通しています。これはいよいよ怪しい。

鳩は伝書鳩として使うほど長距離を飛ぶことができる鳥です。種類によっては渡り鳥の鳩もいる。

凌雲山はみな雲海でつながっているので、どこかの王宮へもぐりこめればほかの王宮へいくことだって可能でしょう。

戴の各州州侯が病んだり官位が高いものほど阿選に翻りやすかったのも、州城が雲海でつながっていることが原因と考えれば自然ですし。

展開が広がる鳩妖魔設定

白銀の墟 玄の月はあと二巻を残すのみ。しかし一国の王宮である白圭宮に妖魔が湧くなんて異常事態にはまだまだ展開の広がりがありそうです。

鳩の妖魔が一国の王宮たる白圭宮に潜り込めたのか。妖魔が黒幕にせよ妖魔の背後に何者かがいるにせよ、その目的はなにか。

妄想味をさらにブーストして考察すると、まず妖魔が湧いた原因は泰麒にあり、泰麒がさらに闇を深めるなんて展開がありそうで怖い。

例えば鳴蝕で王宮が崩れたためとか、驍宗登極後初の冬至の祭祀に泰麒が参加しなかったために妖魔を抑えきれなかっただとか。

ほか、黒麒というレア要素や伝説級の妖魔 饕餮が別の強大な妖魔を引き寄せてしまった、なんて展開も?

この数年ほどで傾きまくった各国も実は?

さらにいえば作中の数年間で連鎖的に続いている各国の傾きも、根本では戴とつながっているのではないかと。

峯王、塙王、前景王 舒覚のご乱心にはそれぞれ一応の理由がつけられてはいましたが、どれも王本人の想いが暴走したものでした。これも鳩の妖魔が関わっていたなんて展開?

さすがに戴国、芳国、巧国、慶国、柳国と傾いたのが一時に集中し過ぎていると感じるのです(もう少し遡れば前采王 砥尚も?)。その根が同じところに原因があったと勘繰りたくなる。

いまのところ鳩の能力として確かなのは魂を抜いて傀儡を作ることだけ。しかしもし、人の負の感情を操るなどといったことができれば、どこにかして潜り込んだ凌雲山から雲海上を渡って各国の王宮に巣食って次々と王を狂気に陥れた、なんてことも考えられます。

もともと、小野不由美先生は十二国記シリーズは最終的に天というシステムに抗う物語になる、としていました。陽子や李斎が天に対して疑問を持ったのもその伏線でしょう。

妖魔と蝕は天の埒外とされる存在。鳩の妖魔が黒幕にせよ背後に何者かの思惑があるにせよ、天のシステムに抗いひっくり返す舞台装置として働きそうな予感が……

いや本当に妄想レベルですが。なんにせよ琅燦は天意についても遠輔と同程度には詳しそうなので、なにかしら深く話に噛んでくるはず。

まとめ:白銀の墟 玄の月で妖魔がほぼ出てこない理由

多くの読者が不思議に思うほど出現しない戴の妖魔。それがただ作品上の都合でオミットされただけなのか、これすらなにかの伏線なのか。

そして鳩が妖魔とわかったいま、今後どのようにして妖魔が戴の事件に関わってくるのか。そして驍宗・泰麒主従と王朝の行方はどうなるのか。

とにかく楽しみで夜は妄想ばかり広がる。