戴国・戴関連の登場人物・キャラクターまとめ【十二国記 黄昏の岸 暁の天】
荒れた戴の情景を描くと同時に、驍宗が持つ白銀の髪と泰麒が持つ鋼色の黒髪の対比を書いた白銀の墟 玄の月のタイトル。
表紙絵を見るまでもなく戴の物語となる長編続編に胸躍る今日この頃、間もなく発売される白銀の墟 玄の月に向けて、戴関連の登場人物をまとめました。
蓬山の女仙など直接関係なくとも泰麒と関わりが深いキャラクラーも解説しています。
黄昏の岸 暁の天、魔性の子を含め十二国記全般のネタバレがあるので、まだ全部読んでない方はご注意。
戴国の人々
まずメインとなる戴国の登場人物から。
誤りなどあったらご指摘いただけると幸いです。なんせ黄昏の岸 暁の天はの戴パートはミステリー・サスペンス然としてて、出番も少ないくせして人が多くて……
泰麒 蒿里(こうり)
十二国記シリーズ公式ページより ©︎小野不由美 / 新潮社
驕王の治世にすえ亡くなった先の麒麟に次いで生まれた戴国の麒麟。
蝕によって卵果のまま蓬莱へ流された胎果の麒麟であり、世にも珍しい黒麒麟。
蓬莱での名前は高里要(たかさとかなめ)。驍宗から与えられた字は蒿里(こうり)。
流されてから10年経って延麒によって発見され、廉麟の協力でようやく蓬山へ戻った。
10年ものあいだ人として育ったため麒麟としての力の使い方がわからず、当初は使令を折伏もできず麒麟の姿に転変もできずいた。
が、王気のあった驍宗を救うためのため伝説の妖魔 饕餮を折伏し、転変も成し遂げる。そして驍宗を王と選び、戴国へ。
しかし戴国におりてから半年ほどで阿選に襲撃され、角と麒麟としての記憶を失いながらも鳴蝕を起こし、かろうじて蓬莱の生家へと逃れ、6年ほど普通の人間として暮らす。
その後、李斎と陽子、各国国王・麒麟らの尽力により十二国世界へ連れ戻され、李斎とともに戴へ帰還する。
子どもらしい無邪気な性格を持つと同時に、祖母に厳しくあたられた経験から人の顔や気分をうかがうクセがある。自己評価が低い。
麒麟として、台輔としての自分に自信が持てずにいたが、驍宗の計らいで漣で廉王 世卓と語らい、自身の役目と仕事について理解した。
年齢的には黄昏の岸 暁の天の時代で17歳。年齢的には陽子のひとつ下の代。ただ、1年留年しているため実際に学校に通っていたとしたら陽子とは2学年差の代。
このころには成獣しており、性格も悟りきったような落ち着いたものになっていた。この事実は幼く無邪気な泰麒を知っていた景麒や李斎のみならず、多くの泰麒ファンに喪失感を与えている。
金色でなく黒い髪=鬣をもつ黒麒麟は世にも珍しいもので、転変時の姿は下記のように形容される。
まだ短い鬣は鋼の色。
黒に銀と雲母を散らした背、漆黒の脚、漆黒の首。
額に短く真珠の一角。
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 風の海 迷宮の岸より
黒麒麟はただ珍しいばかりでなく、十二国世界では現世とは違い黒が慶事を示す色であること、饕餮を折伏したこと、角を失いながらも成獣したことなどから、作中度々「 さすが黒麒麟はすごい 」などと評されている。
が、作者の小野不由美さんによれば黒麒麟だからといって妖力や能力が優れていることはなく、ただの色違いとのこと。
蓬莱での名前が高里要だったことから、登極後の驍宗より字として蒿里(こうり)の名を賜った。蒿里は蓬山にある山のひとつで死者が住まうとされる場所。
名づけ親の驍宗は「 いっそ不吉で縁起がよかろう 」としたが、のちに延麒に「 前も思ったけど趣味のいい名前だよな 」と評されることとなる。
なお、蒿里山は中国に実在する山。かつて死者が還る場所として信仰されていた。同じく実在する泰山の近くにある。十二国記世界にある蓬山も昔は泰山だったとされることからも、中国=崑崙と黄海は裏表一体の関係性だとわかる。
「……長い辛い夢を見ていました」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
驍宗(ぎょうそう)
十二国記シリーズ公式ページより ©︎小野不由美 / 新潮社
氏は乍。姓名は朴綜(ぼくそう)。委州出身。
風の海 迷宮の岸で泰麒に選ばれ泰王に即位するも、黄昏の岸 暁の天時点で阿選の謀反により玉座を追われ行方不明となっている。そのため戴は荒れ果て妖魔が跋扈し、虚海に隔てられた戴の地理のため他国にも詳しい状況が伝わらずにいた。
もとは先王 驕王のもと、王師の中でも最もくらいの高い禁軍左将軍を務めた武人。
端正な顔立ちで怜悧な目元、血を思わせる深い紅の目、褐色の肌を持つ。巨漢ではないが背丈のある偉丈夫。泰麒の鋼色の髪とは対照的な白銀の髪を持つ。
(ちなみに待望の新作 白銀の墟 玄の月のタイトルには驍宗の銀髪と泰麒の鋼色の黒髪がかかっている)
将軍としてだけでなく剣の達人として知られ、他国へ名がとどろくほど高名。
驕王の付き添いでいった雁で延王と剣の三本勝負をし、結果的には負けるも一本とった。延王いわく一本とられたのはひさびさだったとか。自分より数百年長く生きた武人相手に善戦したのはさすがだが、驍宗本人は同じだけの寿命があれば負けはしない、と負けず嫌い発言。
負けはしたものの延王から一本とったことに喜んだ驕王から剣を下賜され、驍宗は「 人を斬ってもらった剣ではないので宝 」と発言。
また、乱を起こした轍囲の民をただの一人も傷つけずに治めるなど人道的な面がある。武断の王のイメージから冷徹な印象を受けがちだが、直裁苛烈だが礼を知り道を知る評されている。
なお、轍囲の乱の際には兵士が民を傷つけることを禁止し、叩いたら血がついてわかるよう白い綿を貼った盾のみ携行させた。こうして驍宗は民を傷つけずに乱を治めたことから、戴では誠意を意味する言葉として「 轍囲の盾 」と言われるようになった。
登極から半年過ぎたころに轍囲で叛乱があったため驍宗自ら赴き、轍囲手前の郷城 琳宇付近に布陣したあと突如として行方不明になる。謀反の首謀者とされる阿選の兵を半分連れていたことが災いしたと推察されている。
頭脳明晰で決断が早く人望に篤い一方、独善的で強引な性格から敵を作りやすかったようだ。
以来阿選が権を握り各地で反阿選派・親驍宗派を徹底的に弾圧しているが、驍宗自身は姿を消したまま行方がしれない。即位式のおり氾王が驍宗へ贈った装飾物に血が付いた状態で範に届いており、襲撃された可能性は高い。しかし白雉は堕ちていないので生きているものと思われる。
仁道の麒麟は船の錨であると理解しており、泰麒には判断・行動が苛烈すぎる自身の重しになってほしいと考えている。しかし、泰麒が時おり驍宗を怖いと感じるのと同様、驍宗自身も民意である泰麒が自身に恐れを抱くことに不安を感じている節がある。
「急ぎすぎる、果敢すぎる、と言う者がある。それはあながち間違っていないと思う。だが、どうも私は昔から、手綱を緩めることが得手ではない。だから蒿里の顔が見られたほうがいいのだ」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 華胥の幽夢 冬栄より
先泰王 驕王
戴の先王。豪奢を好み贅を尽くし戴の国庫を傾かせた。驍宗いわく、王宮の蔵には富どころか借用書しかなかったらしい。
金銀を貼った好んで鎧を着ていたらしく、氾王 呉藍滌には悪趣味だと毛嫌いされていた。延麒 六太もまた、驕王が玉などで派手に飾った宮を趣味が悪いと評している。氾と延、いがみ合っててもやっぱり気が合うらしい。
崩御した経緯などはあまり詳しく書かれていないが、戴史乍書によれば和元22年の春に台輔が失道し崩御。
しかし治世124年とそれなりに長い。それもひとえに臣下の任命や政治そのものは堅実に行なったおかげ。
文治の王で慣例、道義、秩序を重視し、急激な変化や改革を避けて穏やかな治世がなされた。そのため「 寝にあっては暗、朝にあっては明 」と評されている。
兵卒らは冷遇したとされるが、驍宗を禁軍将軍に任じた辺り、やはり官を見る目はあったようだ。
驍宗が延王から三本勝負中一本とったことを大層喜んで剣を贈り、驍宗はこれを「 人を斬らずに頂いたから宝 」と愛用している。
計都(けいと)
驍宗の騎獣。十二国世界でもっとも優れた騎獣とされる騶虞(すうぐ)。
一国を一日で駆け抜けるほどの俊足。よく慣れて利口なうえ勇猛さも併せ持つ。玉で特に好む瑪瑙を餌におびき出して捕えるのが一般的な模様。
素晴らしく長く、先まで不思議な五色に輝いて見える尾と、信じられないほど複雑で美しい色をした目を持つ虎のような妖獣。
驍宗が自ら黄氏の弟子になって何度も黄海に入り、自分で捕えて自分で慣らした。驍宗いわく、調教師が悪いためにいっかな驍宗以外の者には慣れないらしい。さすが驍宗、騎獣からして李斎とは対照的である。
白汕子(はくさんし)
汕子は泰果がみのった際に生まれた泰麒の女怪。白は蓬山で実った女怪の定めとしてつけられた姓。
首は魚、上体は人、脚は豹、尾は蜥蜴といろいろな動物が混じった姿。女怪はいろいろな動物がよく混ざっている方がいいとされ、景麒もよい女怪と評している。
蝕によって眼前で泰果を流されてのち、10年もの間黄海の東側を探し回った。
泰麒が御しきれていないためか汕子の性格的なものか、はたまた眼前で泰果を失ったトラウマからかは不明だが、危険から泰麒を守る際、その後の影響を省みることのない短慮な面がある。
そのために泰麒が襲撃者や汕子の血に気分を害したり、魔性の子では汕子の報復によって泰麒が大きな怨嗟を受けるなど悪い結果を呼び込むこととなった。
鳴蝕により蓬莱へ逃れ麒麟としての記憶と能力を失った泰麒=高里要を守るためあまりに多くの怨嗟と血の穢れを集めてしまったため、蓬山へ帰還した泰麒が玉葉に預けられた際に傲濫とともに泰麒から引きはがされた。
その後は不明。
泰麒に危害を加えることは許さない……
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
傲濫(ごうらん)
饕餮(とうてつ)と呼ばれる超強大な力を持った妖魔で、泰麒唯一の使令。ほとんど人目につくことはなく、十二国世界でもほとんど伝説のような存在とされていた。
およそ麒麟が折伏できるような妖魔ではないと理解されていたが、泰麒が驍宗を守りたい一心で折伏し、女怪の汕子をのぞき唯一の使令となる。
黄昏の岸 暁の天にて泰麒が鳴蝕を起こし蓬莱に逃れた際、汕子とともに同行。汕子と同じく血の穢れ怨嗟を負い、十二国世界へ戻ったのちに蓬山にて泰麒と引きはがされる。その後は不明。
強大な妖力を持ち望む姿に転変が可能。本来、転変自体が麒麟のような妖力甚大な生き物にしかできないもの。実際十二国記では使令もふくめ多くの妖魔が登場しますが、転変してみせたのは麒麟以外では饕餮のみ。
あれ、半獣は……?
饕餮は中国の神話に実際に登場する怪物で、体は人の顔と虎の牙、爪は人と同じ、身体は牛 or 羊で角が生えている姿とされる。
力のある妖魔は呉剛の門を通って十二国世界と蓬莱・崑崙とを行き来できるとのことなので、中国に古来伝わる饕餮は黄海から崑崙へ渡った際に目撃された姿が伝わったのかも?
「決して注意を怠らないように。敵が追ってくるかもしれない」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
阿選(あせん)
氏は丈。丈阿選。姓名は朴高(ぼくこう)。黄昏の岸 暁の天で謀反を起こし、驍宗と泰麒を行方不明に追い込んだ首謀者とされる。
先王の時代より驍宗と双璧をなすとされた武人で並んで禁軍将軍を務めた。用兵や武人としての性格も似ているとされている。泰麒からみても驍宗とどことなく似ていると感じられていた。
ただ、驍宗のような怖いと思わせるような覇気はなく、その分泰麒も物怖じせずに済んだ。少なくとも表向きは驍宗とも親しくしていたらしい。
驍宗が自ら鎮圧に向かうようゆかりのある文州・轍囲で乱を起こし、驍宗は弑逆のためにおびき出されたのだとの噂がある、と泰麒の耳に入れていた。
そうした類の噂は宮中にもあり李斎らも知るところだったが、李斎や正頼ら近しい人々がその噂を泰麒の耳に入れず絶えず否定していたことから、阿選が信頼されることに。
勝ち得た信頼を利用した阿選は使令を驍宗の護衛に向かわせるよう仕向け、そそのかされた泰麒は実際に饕餮、汕子双方を驍宗のもとへ送ってしまう。
泰麒が無防備と知った阿選は剣をふるい、これが角に当たったことで泰麒が鳴蝕を起こし蓬莱へ逃げ、角とその力を失うきっかけとなった。
本来あるはずのない雲海上の蝕によって宮のあちこちが崩れ多くの官が死傷。同時に入った驍宗行方不明の知らせも相まった混乱のスキをつき、実権を握った。
阿選が偽王とわかったあとは李斎ら心ある者たちが何度も反阿選のため行動するも、行方不明になったり突然阿選に寝返るなど、不自然な形で組織が瓦解し機能しなかった。
実際に披露された描写はないが、黄昏の岸 暁の天巻末で阿選が幻術の使いとの記載があり、幻術によって人心を惑わせたものと思われる。
「驍宗を選んだ、あなたが悪い」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
李斎(りさい)
元は承州師承州師中将軍。驍宗登極後、瑞州師中将軍に抜擢された。姓名は劉紫(りゅうし)。
風の海 迷宮の岸では黄旗があがった次の夏至に昇山し、泰麒が李斎の騎獣天馬 飛燕を目に留めたことが縁で親しくし、また驍宗とも知己を得た。
その後、新王となった驍宗に引き立てられ王師将軍の一人となった。重臣のなかでは数少ない驍宗の元配下でない人材。李斎が有能で信のおける将軍だったのはもちろんで、信もあり気安い李斎を瑞州を治める立場の泰麒の近くにおく配慮もあったものと思われる。
黄昏の岸 暁の天では阿選の謀反を知る二声氏を保護したことから嫌疑をかけられ屈辱の想いを胸に逃走。阿選の謀反が知れ渡ってからは各地で反阿選の仲間を集めるも、地位の高い者が突如として阿選側に寝返ったり行方をくらませる、挙句の果てには李斎を追い立てるなどうまくいかなかった。
各地を巡るうちに藍州で花影と再会するも、その藍州すらも追われてしまう。花影ともに逃げているうちに泰麒と同じ胎果である景王が登極したとの噂を聞いた李斎は、景王に助けを求めることを思いつく。それは他国へ覿面の罪を勧める行為だったため反対した花影と袂を分かった。
命からがら慶へたどり着いた李斎は景王 陽子に直訴。これがもとで陽子が各国へ協力を仰ぎ、最終的に七国もの麒麟が協力して崑崙・蓬莱への大捜索を敢行し、泰麒を連れ戻すことに成功する。
なお、戴を脱出して慶に向かうさいに李斎は利き腕を失っており、保護を受けて以降、特に李斎自身がなにか行動できたわけではない。が、李斎の心からの訴えは景王 陽子だけでなく、西王母や玄君玉葉ら神仙すらも動かした。
その後、泰麒に諭されともに戴へ戻る決心をつけ、自身の騎獣、天馬の飛燕に乗って泰麒とともに戴へむけて旅立つ。
「けれども、戴には光が必要です。それすらなければ、戴は本当に凍って死に絶えてしまいます……」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
飛燕(ひえん)
李斎の騎獣。幼獣の一種、天馬(てんば)。翼が生えた大きな犬ようだと形容される。懐きやすく穏やかな性格。李斎だけでなく泰麒にもよく懐いた。
主人である李斎との絆は深く、黄昏の岸 暁の天で堯天にたどりついた際には慶の兵らから身を挺して李斎をかばっている。
堯天についたときはボロボロの状態だったが、李斎ほど傷は深くなかったらしく快癒。李斎と戻って来た泰麒の二人を乗せ、戴へ旅立った。
正頼(せいらい)
泰麒の尻フェチで、泰麒が治める瑞州の令尹(さいしょう)であると同時にまだ幼い泰麒の教育係としてつけられた傅相。実年齢は不明だが老人の姿をしている。
泰麒が漣を訪ねる際にも同行している。茶目っ気が多く、泰麒や周囲の人にいたずらをしたりからかうのが趣味。それがもとで驍宗にこってり絞られたりもする。
文官ではあるが、もともと驍宗の部下だった軍吏。鳴蝕の際に負傷するもさほど大きなケガではないとされる。その後については特に触れられていない。
(私の勝手な妄想ですが、正頼こそが阿選を裏から操って謀反を起こした黒幕ではないかって気がしてる)
「腕白小僧の首根っこを摑まえて、がみがみ言うのが私の役目なんですから。たまには大変な悪戯をしでかして、尊いお尻をぶたせてくれなくちゃ、じいやには楽しみがありません。」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 華胥の幽夢 冬栄より
潭翠(たんすい)
泰麒の護衛として日頃から常につき従う大僕。泰麒が漣を訪ねる際にも正頼らとともに同行した。
滅多なことでは顔色を変えない冷静沈着な男らしく、面食らった表情を珍しがられる。
鳴蝕の折には正頼に呼ばれて離れており、正殿の泰麒のそばにいなかった。その後については特に触れられていない。
「わかりません。おそばにいなかったのです。一体、何が起こったのですか」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
詠仲(えいちゅう)
戴国の冢宰。冢宰なんて重臣中の重臣だが影が薄い。もとは垂州侯で驍宗の部下ではなかった一人。
鳴蝕で重症を負い当初起き上がれず話もできない状態だった。のちにその傷が元で亡くなったと伝えられる。
皆白(かいはく)
宮中の諸事を司る天官長太宰。もともと驍宗の部下だった一人。
泰麒が起こした鳴蝕で行方不明に。本来であれば序列的に王である驍宗、泰麒、冢宰、三公らが不在のなか朝廷の采配をとるべき立場だった。
倒壊した三公の府第にいたことが目撃されており、そのまま見つかっていないと伝わる。
宣角(せんかく)
土地や戸籍を管理する地官長大司徒。蝕が起こった時、李斎と路門にいた。瑞州から抜擢された若い文官。
驍宗行方不明、泰麒の鳴蝕、多くの高官が行方不明や重体により動けないなか、天官長につぐ官として朝廷の采配を取るべき序列だったが固辞。
宣角はもともと驍宗の部下でなかったうちの一人でなうえ、まだ若い文官。驍宗が取り組んでいた武断の朝廷を率いるのに不安があるのも当然で、残る重臣らも強くすすめはしなかった。
「とんでもない。私は到底、その器にありません」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
張運(ちょううん)
国の祭祀や式典、学校関係を司る春官長大宗伯。
ほぼ登場せず影が薄い。
風の海 迷宮の岸本編中、驍宗が先王時代からの官で華美を好むとし、春官長を罷免しようとしたところを泰麒が諫めたため、もうしばらく様子をみることにしている。
ただ、張運がその華美を好む春官長と同一人物なのかはっきりしない。冬狩と称した粛清ですげかえたあとが張運なのか、ずっと様子見したのか。いずれにしても不明。
芭墨(はぼく)
軍事や警備を司る夏官長大司馬。髭に白いものが混ざった男性。
文州の乱に際しあえて征伐の時期を延ばすことでより多くの土匪を引き出し一網打尽にすることを進言し、巌趙に血も涙もない親父とされた。軍吏らしく苛烈な性格のよう。
のちに処刑されたと伝わる。
「なんの。血や涙があれば夏官や軍吏になど、なるはずがなかろうて」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
花影(かえい)
法整備、裁判、外交を司る秋官長大司寇。驍宗の泰王登極後に召集された、驍宗の重臣のなかではもともと驍宗の部下ではなかったうちの一人。元は藍州州宰。
見た目は四十代半ばの女性で、実年齢も外見年齢も李斎よりも上。藍州では民からの人望も篤く、州宰として高名だった有能な人材。
もともと情理に篤い性格で人を裁く秋官に向かず、気を病んだ。本来向かない人事だったが、これは驍宗が自身の直裁苛烈さを自覚し、罪人に甘く本来秋官に向かない花影こそ重しとして働いてバランスをとってくれると考えての人事だった。
悩みを打ち明ける間に仲良くなった李斎伝いに驍宗の本心を聞いた花影は心のつかえがとれ、秋官長としての職務を忠実にこなしていくように。
阿選の叛乱後は出身地である藍州へ逃れ、同じく逃れてきた李斎と出会う。その後藍州から逃げ出しともに垂州州城に向かっていたが、戴のためなら景王をそそのかすことも辞さない姿勢の李斎と袂を分かった。一人で垂州州城に向かったものと思われるが、以降の足取りは不明。
「……寒いのではありません。李斎殿、私は怖いのです」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
琅燦(ろうさん)
国が所蔵する武具や物品の製造・管理を司る冬官長大司空。もともと驍宗配下だった。
外見年齢は18〜19歳程の女性だが、恐ろしく博識で、およそ冬官の誰と会話しても話が通じないことがないほどの広く深い知識を持ち、冬官長としてこれ以上ない適任者と理解されている。
阿選を除くと唯一、朝廷内に流れていた驍宗の出征には疑惑が多いとの噂を泰麒の耳に入れていた人物。
多くの者が情理に流されていたなか、泰麒本来の役職と役目に基づいた理由で泰麒に包み隠さず話していた。
論理的思考はさすがモノづくりに長けた冬官の長といったところ。阿選の乱後の安否は不明。
「私に言わせると、あんたらがなんたって台輔をああも非力な子供みたいに扱うのか分からない。いるんでしょ、饕餮が」
「言いようによっちゃあ、饕餮以上の化物なんだよ……あの麒麟さんは」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
霜元(そうげん)
泰麒が治める瑞州師左軍将軍。巨躯ではないが上背のある偉丈夫で、どことなく品格のある佇まいを持っている。泰麒は「 西洋の騎士 」のようだと形容している。
李斎からみて堅実でまっとうな戦をする武将。短編集 冬栄で泰麒とともに漣へ行った一人。
英章に続き、文州の乱鎮圧のために出征していた。その後、続いて文州へ向かった驍宗の行方不明を知らせてきたのも霜元。
阿選の謀反を知った李斎が知らせを出したうちの一人。もう一人、李斎が阿選の謀反を知らせた芭墨はのちに処刑されたと伝わっているが、霜元は特にその後語られていないので、霜元が阿選に通じていた可能性が高い。
また、理由は不明だが、驍宗の行方不明を知らせてきた際に芭墨が帰還するよう命じられてていたはずがなぜか戻らずに文州にとどまっていた(後から瑞州に向けて出征したはずの李斎が、文州にいた彼に青鳥を飛ばしている)。
芭墨の命令を無視したか、その後実権を握った阿選が留まらせたか……いずれにしてもなにかしらの意図があったと思われる。
英章(えいしょう)
驍宗直属である禁軍の中軍将軍。驍宗の登極以前から部下だった一人。
黄昏の岸 暁の天で文州の乱がおきた際は真っ先に文州へ出征し当初の乱を治めた。将軍としては非常に優秀だが、さすがに続発する乱すべてには対応できず、結局霜元、臥信、驍宗らが出向くことになった。
臥信(がしん)
瑞州師右将軍。主従の気安い仲とはいえ驍宗本人に「 飢えた虎の横にいるようで傍に寄るのが嫌 」と言った豪の者。
文州の乱を鎮めるため英章に続いて出征しており、阿選の乱後は英章と同じく姿を消したとされる。
「どうして、そこに私の名前だけないのかなあ。驍宗様を妬むまでもない小物だと思われてるんだったら、がっかりだな」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
巌趙(がんちょう)
驍宗直属である禁軍左軍将軍。巨軀を持つ武人で、李斎からみてまっとうで堅実な戦をする武将。驍宗登極前から部下だった一人。
もともと先王時代から禁軍におり高名だった武官で、禁軍将軍に空きが出たときに将軍になると目されていた。が、結果的に異例の若さで禁軍将軍に任じられた驍宗の配下となった。
その恨みから驍宗に対して含むところがあるのではないか、と阿選の乱以前より噂があった。しかし李斎は「 巌趙は驍宗を誇りに思っているようだし、驍宗は巌趙を家族も同然と思っているよう 」のでそれはないだろう、と評している。
ただ、李斎が芭墨に送った「 阿選、謀反 」の手紙について相談される可能性も高い人物でもある。阿選が乱を起こし実権を握ったあとの安否・行方は完全不明。かつ驍宗へ恨みを抱く動機もあるとすれば、驍宗配下内の裏切り者候補としては十分に怪しいと言える。
「調子づかせるわけにはいかん。国と言う押さえのあることを分からせてやらねばな」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
戴国三公・三孤
「 三公(さんこう) 」って名前の登場人物ではなく、役職。太師、太保、太傳の三人を指す。それぞれ下に補佐官がつき三孤と呼ばれる。
計6人いるなか、黄昏の岸 暁の天で起きた鳴蝕によってうち2名は死亡、1名は重症。残る3人は天官長 皆白と行方不明。
仁重殿のすぐ近くにあった三公の府第(役所)が倒壊したためで、恐らく巻き込まれて亡くなったものと思われる。
6名全員、名前も特に出てはこない。とはいえ、新刊の白銀の墟 玄の月で突然「 ふっふっふ、我々も阿選様についたのよ 」などとほざきながら登場しないとも限らないので、そういう人たちがいたことは記録しておく。
っていうかその登場の仕方三闘神的な感じでなんかカッコいい。ってことは一緒に行方不明になった皆白がケフカか?(突然のFF6ネタすみません)
三公も高官には違いないが、麒麟の教育係&王への助言・諫言を行う相談役。実際に政治に参与する実権はない。下手したら口出すだけのただのイヤなヤツポジション。
風の万里 黎明の空では陽子がこの点を利用し、重臣3人を三公に任じることで実権をともなう派閥争いができないよう封じてから市井におりた。さすが優等生女子高生、頭いい。
戴の三公は特に登場シーンもなく各人の名前すら不明だが、他国の例でいえば風の万里 黎明の空のラストで遠甫が三公筆頭の太師に任じられているほか、短編 華胥で黄姑が先王 砥尚時代の三公次席 太傳として登場している。ちなみに黄姑は現采王。
二声氏
姓名不明。二声氏は役職名。王の即位時と崩御時にのみ鳴く白雉の世話をする官。
王が崩御した際に玉璽代わりになる白雉の足を狙った阿選に二声宮を襲撃され同僚を皆殺しにされるも、命からがら逃走。その後浮民に紛れて逃げ続け、乱の鎮圧のため王宮を出た李斎に阿選の謀反を知らせた。
しかし、裏切り者によってその存在が漏れ、やってきた阿選の手下によって斬り殺される。
同僚を皆殺しにされながらも命からがら逃げ延びて謀反を知らせたのに、謀反人の濡れ衣まで着せられたうえで殺されるとは。心境を考えると不憫で声も出ない。
彼や多くの者たちの無念を晴らすためにも、泰麒と李斎には頑張ってほしい。
「命からがら、私は宮城を抜け出しました。遺体を運ぶ車の中に紛れ込んで、死人の振りをして門を通り抜けたのです」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
山間の隠者と孫娘
つてを辿って諸国を逃げ回っている間の一時期、李斎が身を寄せていた山間に住まう隠者とその孫娘。
隠者は李斎にもう驍宗のことは諦め、自分自身の幸福を考えるべきだと勧めた。
が、その孫娘は国の荒廃を悲しみ、驍宗と泰麒を救って欲しいと李斎に懇願した。
祖父も孫娘も李斎をかくまった咎により阿選に処刑されている。
「王宮は厚く低い雲に覆われた戴の、ただ一つの晴れ間のような気がします。その蒼天が曇っている。地上の煙が雪雲のように鴻基を覆って、この国には晴れ間がない……」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
醐孫(ごそん)
風の海 迷宮の岸作中にて、蓬山に帰還して間もない泰麒に狼藉を働き捕まえたから自分こそがが泰王とのたまった人物。馬候司寇大夫。
某女仙は「 馬州はこんなアホに司寇大夫の地位を与えたのか! 」と怒っていたが、
- 仙とはいえ超少人数で黄海を踏破し蓬山までたどり着いた。
- 汕子と渡り合う実力。
- 岩の上にいた泰麒を、鎖で的確に捉えた。
など、武術に関していえばそれなりの実力を備えた人材だったと推察される。もちろんだからといって狼藉が許されるわけはないが。これだから戴国人は。
通常、昇山したものたちは中日頃まで蓬山のふともに滞在することを赦される。おそらく、必要なら食料や水などの物資も施してもらえるのだろう。が、しかし醐孫は激怒した女仙らによってその場で追い返された。
果たして黄海のなかで夏至まで過ごし、生還できただろうか。しかも夏至に開くのは戴とは真逆方向の南西に位置する坤海門。三ヶ月まるまる黄海で過ごし、無事に出たと思ったら故郷は遥か遠く世界の反対側。珠晶も真っ青の地獄の昇山劇である。
無事に戴の馬州に帰れたとしても、新王が驍宗では粛清されるだけかもしれない。
とはいえ、怒りにかられた女仙によって八つ裂きにもされず、泰麒に使令がいなかった命拾いできたのは幸運といえる。仮にこのとき饕餮がいたら……
「俺が泰王だ!」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 風の海 迷宮の岸より
呂迫(ろはく)
驍宗、李斎と同じく夏至に入って蓬山へたどり着いた昇山者。馬州南擁郷生まれ、垂州司馬。
甫渡宮への進香に1日10度は訪れ、ただでさえ見守るだけに飽いた女仙たちを辟易させた。結局泰麒に選ばれることはなく、「 中日までご無事で 」と声をかけられる。
あまり見た目が麗しい方ではないらしく、赤ら顔から女仙らは密かに南瓜太夫と呼んでいた。熱心でいいじゃないか。女仙たち、俗世間から離れた存在の割にはブサイクへの扱いちょっとひどくない?
あと作中の馬州への扱いもひどくない?
「……そう……そうか。……さようか」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 風の海 迷宮の岸より
蓬山・黄海の人々
一年程度しか十二国世界にいなかった泰麒ですが、実際に戴にいたのは半年程度。
残る半年を過ごした蓬山の女仙や、二度目の帰還で泰麒を癒した神仙の存在も忘れてはいけません。
禎衛(えいてい)
生まれた麒麟の世話をする蓬山に住まう女仙の一人。
十八、十九くらいの年齢に見えるが、蓬山では最も長く女仙を務めているベテラン。本当の年齢だけでなく、どういった経緯でいつ昇仙したのかは彼女自身も憶えていないほど長い。一介の女仙ではありながら、キャリアの長さからか玉葉に次ぐ立場らしい。
原作にはない設定だが、アニメ版では延麒がいた約500年前の蓬山にも登場し、当時は新参の女仙として描かれている。
普段は女仙らしく落ち着き払った心優しい女性。しかし泰麒のことになると激しやすい一面がある。
「返答をいたせ。それとも、この蓬山の女仙の、仙たる証をその目で見たいか」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 風の海 迷宮の岸より
蓉可(ようか)
蓬山に住まう女仙の一人で、なかでももっとも新参者。
平凡な農家の娘として生まれたが、どうにも世俗に馴染めず13歳のときに昇仙の誓いをたてる。以後3年間、五穀を断ち西王母の廟に通い続け、16歳の年に満願成就し五山へ召し上げられた。
すでにいた麒麟、(たぶん景麒)の世話には関われず雑用ばかりで飽いていたが、泰麒が孵ったら世話を手伝うことが決まり楽しみにしていた。
そんな経緯もあり流されてしまった泰麒への愛着は強く、蝕に流されてから10年経っても生還を諦めずいつ泰麒が帰ってきても大丈夫なよう常々準備を怠らずにていた。
そうした愛情が伝わったか、泰麒も数ある女仙のなかでも特に蓉可に心を許していた。
泰麒が流された頃はまだ蓬山の地理に疎かったが、泰麒が帰還したころにはすっかり慣れている。
「女仙の目がなくなるからといって、駄目ですよ、お切りになっては。せっかく綺麗なお姿なのだから、鬣が短いのは惜しいもの……」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 風の海 迷宮の岸より
天仙玉女碧霞玄君玉葉
女仙を束ねる長にして、蓬山のヌシ。天と人界の橋渡し役。若いようでもあり中年を超えているようにも見えるが、いずれにせよ美貌の持ち主。
十二国世界で玉葉という名が定番なのは彼女のように美しく育ってほしい、という願いから。
服や装身具も女仙らとは各段に違うものを身に着けており、一目で身分が高いとわかる姿。十二国記世界で女の子の名よく使われる玉葉は碧霞玄君から採られたもの。世俗にも親しまれている神仙といえる。
高位の存在でありながら軽妙なところもある性格で、親しみを持てる好人物。
昇山の際には会っていない李斎のことを知っていたり、延気が陽子に言った「 蓬山のヌシ 」という言葉を知っているなど、読心術か千里眼のような力のどちらかがあると思われる。さすがは天仙。
黄昏の岸 暁の天で李斎の懇願にほだされ、泰麒帰還のために知恵を出した。
ちなみに中国に実在する泰山信仰にも天仙聖母碧霞玄君と呼ばれる女神がおり、その名が玉葉という説がある。
「延台輔にはいつもながらの唐突のお越し、ほんに台輔はいつまで経ってもお変わりにならぬ」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
西王母
玉京におわすとされる女神。衆目の認める美貌をもつ玉葉に比べると、あまりにも凡庸なご尊顔。
ひたすら無機質で抑揚のない声で表情も乏しい。激した李斎の無礼な訴えにも眉が動いた程度。冗談も言いとっつきやすい玉葉とは対照的。
怨嗟によって病んだ泰麒を癒すも、角までは治してくれなかったため泰麒は麒麟の力を失ったままとなった。
実はこれが、戴国の現状では泰麒が失道するため、麒麟としての力を戻さないよう善意で治さなかった、との考察もある。
西王母もまた実在の中国に古くから信仰される女神。
「……病は祓おう。それ以上のことは、いまはならぬ」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
更夜(こうや)
黄海の旅の安全を守る天仙、犬狼真君。延麒 六太とは幼馴染(?)の友人関係。朱黄以外のものが触れてはならない条件付きながら、神仙に願い黄海に朱黄の民のための里木を授けた。人間時代から「 ろくた 」と名付けた妖魔と行動をともにしている。まさしく妖魔の国、黄海のヌシ。
犬狼真君として、当時昇山中だった現供王 珠晶の危機を救い、天仙として彼女の王器をはかったこともある。
原作では泰麒との接触はないが、アニメ版で蓬山にいた頃の泰麒と接触している。とても微笑ましい絡みなので観ていない方はぜひ見ていただきたい。
その絡みもあるし、白銀の墟 玄の月では珠晶登場もありそう(願望)なので、再登場の可能性もあると思いたい。ただ、新潮社版への移植で完全版になるときに泰麒とのエピソードが追加されていないので、やっぱないかも。
他国の人々
景王 陽子(ようこ)
言わずとしれた景女王 中嶋陽子。年齢的には泰麒=高里要のひとつ上の代。高里が留年したため学年的には2つ上。
必死の想いで命からがら慶へたどり着いた李斎に心を動かされ、延王を半ば脅す形でほか6カ国をも巻き込み、泰麒捜索に尽力した。
荒民のための大使館的な存在を各国に作りたいを考え、蓬莱から帰ってきた泰麒からそういった仕組みについて訊こうとするも、高校生として過ごした泰麒もその辺は詳しくわからず。
黙って戴へ旅立とうとする泰麒と李斎の二人のため旌券を用意し、延麒を通して渡している。
「諸官は私に、慶のどこへ導くのだ、と訊いた。これで答えになるだろうか」
諸官の返答はない。視線だけが王に向かう。
「その証として、伏礼を廃す。――これをもって初勅とする」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 風の万里 黎明の空より
景麒
吾輩は景麒である。字はまだない。泰麒の前に蓬山にいた麒麟。
陽子を選んで慶の女王にした麒麟でもある。麒麟としての幼少期を経ず人として育ってしまった泰麒にいろいろ教えてほしい、と玉葉が蓬山へ招いたことで面識を得る。
不器用で言葉足らずな性格で泰麒を大いに困らせるが、泰麒と過ごすうちに優しさを見せるようになり、麒麟に転変してみせたり折伏の仕方を教えたほか、背に乗せてやったこともある。
また、驍宗を選んだあとは王気について思い違いをして「 偽物の王を選んでしまった 」と苦しんでいた泰麒のため、延王・延麒とともに一芝居打ったりと意外と面倒見がいい。
その面倒見のよさをもう少し陽子にも発揮してあげていれば……と思うが、言外の優しさが最悪の方向に働いた舒覚の例もあるので、蓬莱で見つけた王が女性と知って遠慮してしまったのかもしれない。
「そのために戻っていらしたのでしょう。泰麒がこうしておられるのは、まだ希望が潰えていないことの証です。御案じなさいますな」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
雀胡(じゃっこ)
飛鼠(ひそ)という種類のウサギににた妖魔。耳の短いうさぎ、もしくは耳の細長いネズミ。柔らかい毛並みを持つ。
折伏の仕方がわからない泰麒のため、景麒が実演として捕まえてみせた。
小物ゆえに片言くらいしかしゃべれず、特別役に立つ妖魔でもないため景麒は王宮の隅にでも放してやるしかない、と考えていた。
黄昏の岸 暁の天で景麒と泰麒が再会した際にも特に出番はなかったが、二人の絆の象徴としてまた登場するかも?
凱之(がいし)・杜真(としん)
黄昏の岸 暁の天冒頭で李斎が慶国の王宮、金波宮へ保護を求めて押し入ったとき禁門への門番をしていた兵卒。
禁軍左軍所属の兵士で、凱之は5人からなる隊をたばねる伍長。元麦州師。杜真は入隊して半年程度の新兵で、凱之の部下。
禁門での指揮権を持つ閽人に殺せと命じられるも、二人は李斎の尋常でない様子をみてとり半ば命令に逆らう形で殺さないよう立ち回った。このとき取り上げた剣は杜真が預かり、ラストで泰麒と李斎が出立するさいに研いだ状態で返した。
李斎にとってはただ命を救われただけでなく、武器と騎獣 飛燕の世話をしてくれた武人としての恩人であり、戴国そのものの恩人ともいえる。
延王 尚隆(しょうりゅう)
治世が500年続き豊かな雁国の王。実は胎果の王。
風の海 迷宮の岸では王気を誤解し天罰を恐れていた泰麒のため一芝居打った。その誼で驍宗・泰麒とは面識がある。
黄昏の岸 暁の天では戴を救いたいと動き出した陽子にやめるよう説得するため慶に赴くも、結局陽子と延麒に押し切られる形で泰麒捜索に協力。
各国を取り仕切っただけでなく、麒麟の力を失った泰麒を雁国の三公に任じて月の影を通すため直接蓬莱へ赴いた。その際、数百年ぶりに祖国を見たわけだが、特に大きな感慨はわかなかったようである。
「ええい、何から何まで――俺を何だと思ってる! 俺は確かに雁の小間使いだが、他国の用まで片づけてやる義理はないのだぞ!」
小野不由美著 新潮文庫 完全版 十二国記 黄昏の岸 暁の天より
延麒 六太(ろくた)
延国の麒麟。六太。尚隆から下賜された字は馬鹿。泰麒と同じく胎果の麒麟。
風の海 迷宮の岸で泰麒を連れ戻したのは廉麟と汕子だったが、実は見つけたのは延麒。よく蓬莱に遊びに行っており、その際に見つけた。数年後、また泰麒を捜すハメになろうとは思いもしなかったことだろう。
景麒の依頼で泰麒の王気誤解事件を説くため戴を訪ね、驍宗と泰麒と誼を得た。
自分より小さい麒麟が珍しいためか(?)泰麒をちびといって親しんでいる様子。しかし悲しいかな、黄昏の岸 暁の天で帰還した泰麒は成獣し、身長は逆転している。六太もすでに成獣しているためこれ以上大きくなることもない。二度とちびなんて言えないな。
「こんなに小っこかったんだ。気の小さな奴でさ。――誼がないわけじゃない。会ったのは数えるほどだが、まだ生きていて辛い思いをしているなら、助けてやりたい」
小野不由美著 新潮文庫 完全版 十二国記 黄昏の岸 暁の天より
廉王 鴨世卓(おうせたく)
短編 冬栄で登場した漣国の王。元は農民で、王宮で農業も営んでいる。
詳しい登極時期は不明だが、恭よりは在位期間が短いはずなので、長くても90年には満たないと思われる。
気取らない鷹揚な性格の男王。王宮の儀礼的なところがよくわからず戴の使節団を大いに困惑させたあたり、まだ登極してそう長くはないのかもしれない。
しかし国で乱があったとされるなか持ちこたえたところをみると王としては立派なのだろう。
王は天から与えられた役目であり、農業こそが自身の仕事と考えている。王としては少々特殊に思える持論だが、驍宗を王に選んだあとは特に役に立たずむしろ足を引っ張っていると自信をなくしていた泰麒には救いになる考え方だった。
ちなみに初勅は「 万民は健康に暮らすこと 」。素敵です。
廉麟
鴨世卓を選んだ漣国の麒麟。陽光のように明るい金髪を持つ。18歳くらいの女性の姿。戴とは最も遠い漣国に属しながら、二度も泰麒の帰還を手伝った麒麟でもある。
明朗な雰囲気を持ち、鴨世卓同様に鷹揚な性格。しかし、病んだ饕餮がいると知っても一切引かず使令を叱咤する意思の強さも併せ持つ。
風の海 迷宮の岸でまだ幼い泰麒を連れ戻す際、蝕を起こさず蓬莱と十二国世界をつなぐ宝重 呉剛環蛇を使い協力した。
さらに黄昏の岸 暁の天でも泰麒=高里要を捜すため奔走。ほかの麒麟とは違い呉剛環蛇を使う際に必ず廉麟が必要なため最も疲弊していたはずだが、心から泰麒を心配し奮起していた。
蓬莱で泰麒を見つけた際には、泰麒を迎えに行く延王の先触れの役を担った。そのとき思いつき泰麒の前で麒麟の姿に転変してみせている。これがきっかけで泰麒は失っていた麒麟としての記憶を取り戻した。
廉麟はあずかり知らぬことだったが、かつて景麒が泰麒に転変をみせたことが、泰麒が麒麟としての自分を自覚させた象徴的な出来事だったため。
「安堵したら、主上が恋しくなりました。早く戻って差し上げないと、主上も困っていらっしゃるでしょう。……ちっとも目を離せない方なんですよ」
小野不由美著 新潮文庫 完全版 十二国記 黄昏の岸 暁の天より
氾王 呉藍滌(ごじょうらん)
慶と黄海を挟んで向こうの範を治める氾王。在位期間は300年ほどで、雁の500年に次ぐ長さ。
陽子の呼びかけに応じ、泰麒捜索に協力した。
男王でありながら女装の麗人。見た目は二十代終わり頃くらいで背は高い。他国の王宮であっても自身が滞在する部屋の趣味にこだわり、着る服や装飾品が決まらなければ他国の王すら待たせるほどわがままな超絶オシャレ人。かの祥瓊ですら苦戦するほどだった。
と言っても華美なものを好むわけではなく、質素でも品がよければいいらしい。その点、とにかく華美を好んだ先の泰王は趣味が悪くてかなわなかったと唾棄し、続く驍宗は無骨ながらも趣味はよかったと評している。
質素を好んだ峯王に合わせてあまり派手な装いはしなかった王后を母に持つ祥瓊は、ある意味相性がよかったのかもしれない。
おしゃれとはどんと無縁な延王・延麒とは相性が悪いらしく、延麒に至っては小猿呼ばわりされている。しかし付き合いが長いゆえの気安さからであり、決して仲が悪いわけではない。
しかしさすが300年を数える治世者。特産物のなかった範を十二国随一の匠の国として立たせるなど、王としての手腕は確か。モノを仕入れて加工して売る匠の国としては、戴の特産である玉は貴重であり、その誼から泰麒捜索に協力した。
延王同様、麒麟ともども長期にわたって慶に滞在していたあたり、国は相当安定しているらしい。
「奇跡的な縁で、そなたら戴の民と泰王はまだ繋がっている。……諦めるでないぞ」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
氾麟 梨雪(りせつ)
呉藍滌を氾王とした麒麟。陽子曰く、この少女のように美しく、愛らしい容貌をした者を知らなかったとされるほどの美少女。しかし、祥瓊曰く「 中身は延麒 」。
字は梨雪。飽きっぽい呉藍滌の気分で字を変えられるらしいので、白銀の墟 玄の月ではまた違う字で登場するかもしれない。黄昏の岸 暁の天で陽子が発案した泰麒捜索のため慶の王宮に滞在、実際に蓬莱へ赴き泰麒の発見に一役買った。
愛らしい容姿に違わず無邪気な面があり、慶の王宮をあちこち自由に闊歩して諸官を困惑させてもいた。しかし繊細な面も持ち合わせており、病んだ饕餮がいると知ったときは尻込みしていた。
延王や延麒とは付き合いが長いだけあって気安いらしく、延王を尚隆と呼び捨てにするし、延麒からは小姐(ねえちゃん)と呼ばれていた。実年齢は不明で、呉藍滌の治世が300年なだけで遥か昔から王を選び続けているのかもしれず、もしかしたら延麒の500歳をも超えるとんでもない年寄りなのかもしれない。
「尚隆なんかに当たったら、私の方が壊れちゃうわよ!」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 黄昏の岸 暁の天より
蓬莱の人々
広瀬
「 魔性の子 」の主人公。幼少時に死の淵をさまよった際にみた光景からここではない場所=異世界への憧れを持つ青年。教育実習生として母校に赴任し、高校生となっていた高里要=泰麒と出会う。
自分自身をこの世界にいるべきではない異物と感じており子どもの頃から他人と一線をひいて接していたことから、不思議な雰囲気を持つ高里要に興味を持ち交流を持つ。
その後、高里要の周囲で起こる祟りと報復によって事件の規模も危険性もどんどん大きくなるなか、彼を献身的に保護。「 異世界への憧憬 」という共通点あってのことだったが、最終的には迎えにきたエンオウが高里要を連れ去るなか、一人取り残される絶望を味わった。
広瀬はまさしく十二国世界にはいけないとわかっているわれわれ凡人自身を移す鏡であり、本当に不憫でならないし報われてほしい。
戴が落ち着いたら、きっと泰麒が訪ねていってくれるさ。
「――俺は戻れない! なのに俺を置いて、お前だけが帰るのか!?」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 魔性の子より
高里要の家族
胎果の泰麒である高里要にとっての蓬莱での家族。高里家の構成は祖母、父母、弟。要を加えた5人家族だったが、黄昏の岸 暁の天の作中において全員が亡くなっている。
祖母のみ死因が不明。泰麒が鳴蝕により日本へ戻ってくる少し前に死亡したと思われ、泰麒が要として戻ってきたのがちょうど祖母の葬式中だった。
親類らしき参列者は「 祖母が最後にもう一度会うために呼んだんだ 」としていたが、祖母は要を気味の悪い子と言ってよく叱りあまり愛情を持っていたようには思えない。要をかばう要の母も祖母とは折り合いがよくなかった。
父は神隠しに遭っていた泰麒=高里要が嫌がっても、肉を食べるようしつけた。要の今後を考えての厳しさではあったが、これによって泰麒は穢れを負い、麒麟としての力が戻らない要因となった。泰麒が傲濫や汕子を御しきれず、また彼ら自身が汚れや怨嗟によって暴走する遠因にもなっている。
母は神隠しから戻って来た当初は以前と変わらず高里要を大切にしていたが、その後「 祟り 」によってもたらされる周囲との不和に疲弊し、半ば見捨てている。
饕餮と汕子はそんな父母と弟を「 泰麒に対して無自覚に毒を盛る不届き者ではあるが、一応の庇護者 」として見逃していた。が、魔性の子劇中で高里要に新たな庇護者、広瀬が現れたのち、不要と判断され全員惨殺された。
杉本優香
月の影 影の海で登場した陽子のクラスメイト。クラスでいじめられており、遠回しに助けを求めた陽子にも無視され、陽子のことをよく思っていない。原作では陽子が十二国記世界に来る以前の学校と水禺刀でみた幻にのみ登場。アニメ版でのみ高里要と接触している。
月の影 影の海にて陽子に巻き込まれる形で海客として十二国記世界へ流され蓬莱=日本へ帰還した経験から、のちに同じ高校にいた神隠しの子 高里要に興味を持ち接触。
ドラマCDでは魔性の子における広瀬的なポジションとしても立ち回った。しかしこれ自体は原作とは相容れない描写。原作の続編である白銀の墟 玄の月での再登場もないと考えていいだろう。
「みんながあたしに酷いことを言うでしょ? そういうとき、中嶋さんって、積極的に参加しないんです。いつも自分はこういうことは嫌いなんだけど、って顔をしてるんです。そう言うのって、卑怯だと思う」
小野不由美著 新潮文庫 完全版十二国記 魔性の子より
まとめ:十二国記 戴国関連の登場人物・キャラクター
最新刊の白銀の墟 玄の月の発売を間近に控えていることもあり、黄昏の岸 暁の天を中心に「 誰がなにした人だっけ? 」って部分に焦点を当てて解説しました。
個人的には正頼、霜元あたりが裏切り者として怪しいと思うんですよね。というか、阿選もいいように操られているだけで正頼が黒幕なんじゃないかと考えたり。
そんな妄想をもとに、正頼にお尻をぶたれる覚悟で書いた記事もあるのでぜひ併せてお読みなってみてください。
なんにせよ白銀の墟 玄の月発売まであと少し! 楽しみ!
ディスカッション
コメント一覧
>実際に盾の綿が血に汚れること’’’’乱を’’を’’治め、
>戴に誠意を意味する言葉として「 轍囲の盾 」と言われるようになった。
誤字脱字と思われます。
「実際に盾の綿が血に汚れることなく乱を治め」ではないでしょうか?
>>enzyさん
コメントありがとうございます!
早速修正しました。
本とにらめっこしながら書いたので、ここに限らず他にも誤字脱字あるかと思います。お見苦しくて申し訳ないス。
私も見返して気づいた範囲では直すようにしていますが、また、どこか見かけたらご指摘いただけると助かります。
ありがとうございました。
楽しく読ませて頂いています。
氾麟 梨雪の「延麒からは小姐(ねえちゃん)と呼ばれていた。実年齢は不明で、呉藍滌の治世が300年なだけで遥か昔から王を選び続けているのかもしれず、もしかしたら延麒の500歳をも超えるとんでもない年寄りなのかもしれない。」という文面についてです。
中国語で「小姐」というのは、若い女性への呼び掛けです。日本語で「おねえさん」と女性に呼び掛けるようなものです。なので、この言葉は《氾麟 梨雪が延麒より年上である》という証拠には足りえないと思います。
失礼いたしました。
上記のように書きましたが、
300年の付き合いがある2人が、よそよそしい呼び方をするかどうかと考えた時に、やはり違和感が拭えませんので、素直に年上に対する「ねえちゃん」なのかもしれません。
コメントありがとうございます!
なんかとんでもなく亀レスになってすみません。
コメントが多くて埋もれてしまいました。本当に申し訳ない。
>中国語で「小姐」というのは、若い女性への呼び掛けです。
お恥ずかしながら全く知らなかったです。
知ってしまえば、六太と梨雪が仲良し(?)だからの呼び方だったっていう方が自然に思います。
ありがとうございます!
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