戴国の阿選反乱、正頼が黒幕説(協力者?)【十二国記 黄昏の岸 暁の天考察】
黄昏の岸 暁の天で驍宗と泰麒を排除し、偽王と立った阿選。
しかし、反阿選を抑え込む幻術も驍宗と双璧をなした禁軍将軍にしてはなんとも不自然だし、その動機や行動にも作中で違和感を指摘されています。
そこで考えました。実は別に幻術を使える黒幕か協力者がいるのではないかと。
で、その黒幕が養育係として泰麒の世話役を務めた傅相のじいや正頼ではないか、という考察です。
疑えと囁くのよ、私の蒼猿が。
正頼黒幕説の根拠
- 泰麒襲撃時、潭翠を離したのは正頼
- 正頼を含め、漣に行った面々はその後がハッキリしていない
- 地位の高いものほど突然阿選側につきやすかった理由
- 阿選=幻術使いの違和感と行動の異様さ
- 阿選が実行犯すぎる
一応、上記を根拠とはしています。が、率直に打ち明けます。仮説というより妄想レベルの考察です。
もし間違ってたら正頼にこの別段尊くもなんともないお尻をぶっ叩かれる覚悟です。
ちなみに正頼は黒幕ではなく協力者である可能性もありますが、いちいち黒幕 or 協力者と書くのも面倒なので黒幕とだけ書きます。
護衛を引き離したのが正頼
尻フェチ 正頼黒幕説の一番の根拠は、泰麒襲撃時に専属の護衛官、大僕 潭翠を泰麒から引き離したのが正頼だった点。
鳴蝕が起きて泰麒が行方不明になったとき、戴国官・蓬莱人に関わらず誰もが思ったであろう「 護衛はなにしてた 」って話し。
で、混乱の最中買わされた当の潭翠と李斎の会話がこう。
見ると、半ば傾いた建物の中から、泰麒づきの大僕が這い出してくるところであった。背中には正頼を担いでいる。
「潭翠−−泰麒は」
叫んで駆け寄る。
「わかりません。おそばにいなかったのです。一体、何が起こったのですか」
表情に乏しい男の、血相が変わっていた。頭から埃と壁の欠片を被り、細かな傷を無数に作っている。担がれている正頼の方も同様だったが、とりあえず大きな怪我はさそうだった。どこか、瓦礫の中から馬が悲痛な声で嘶くのが聞こえた。
「なぜおそばを離れた−−最後にお見掛けしたのはどこだ」
「正殿においででした。私は正頼に呼ばれて、小臣に任せて離れたんです」
小野不由美著 新潮文庫 完全版 十二国記 黄昏の岸 暁の天より
よりによって泰麒がそそのかされて使令を驍宗のもとへ送った直後のタイミングで潭翠が泰麒の元を離れる。
米花町の小学生じゃなくても「 あれれ~ 」と言いたくなる疑惑の行動です。
正頼は阿選の乱後の行方がハッキリしない
もう一つ気になるのが、正頼のその後が全くと言っていいほど触れられていない点。
鳴蝕のおりに重くはない怪我をしたことだけは記され以来、名前すらほぼ出てきません。
たとえば王宮にいた重臣のうち、冢宰の詠仲は鳴蝕での怪我がもとで亡くなり、天官長の皆白は鳴蝕以来行方不明でそのまま見つからず、地官長の宣角と夏官長の芭墨は阿選に処刑されたと言及されています。
また、文州に出征に出ていた将軍のうち英章と臥信も姿を消したと具体的に名をあげて説明されています。
基本的に戴の情報は李斎の理解の範疇でしか語られないので、正頼については情報がないといえばそれまでですが……
漣に行ったメンバー全員が怪しい
実は阿選が実権を握った後、特に行方が示されていない人物は正頼だけではありません。ただそこにも気になる点が。
短編作品 冬栄で泰麒と漣にいった面子全員がその後について触れられていないのです。漣へ行ったのは下記4名(泰麒と各自一人ずつ連れていた名無しのお伴は除外)。
- 正頼
- 阿選
- 霜元
- 潭翠
言わずもがなの阿選と先述の正頼だけでなく、泰麒の専属護衛官 潭翠と瑞州師左軍将軍 霜元も阿選の謀反判明後どうなったかが特に触れられていません。
潭翠は泰麒が鳴蝕を起こした直後のシーンで李斎と会話して以来登場せず触れられず。
将軍 霜元は泰麒が襲われた当時文州に出征中。同じく文州に出征していた英章と臥信は姿を消したと言及されているなか、霜元だけはなんとも書かれていない。
幻術使いが阿選にせよ正頼にせよ、漣国紀行中に幻術で……とかありそうな話です。
正頼ら謀反側の人物は死んでもいないし逃げても隠れてもいないので、本編中でもその後についてハッキリと書けない、のでは? とも考えられます。
また、漣に行っていない家臣のなかにも特にその後に触れられていない人物はいます。冬官長の琅燦(※)とか。
しかし、阿選はともかく泰麒のおともとして漣に同行した全員のその後が不明なのは、なにかしらの作為を感じます。
※琅燦も扱い的にはちょっと怪しいかも?
霜元はほぼ真っ黒?
幻術で操られていたにせよ本人の意志にせよ、状況だけ考えれば霜元は真っ黒。阿選側についていると考えられます。
李斎が承州の乱鎮圧のため出征した陣地で二声氏を保護し阿選の謀反を知ったとき、「 阿選、謀反 」の報せを出したのは王宮の芭墨と文州にいた霜元の二人。
それから10日後、阿選の手の者が現れ二声氏を殺し、李斎に逆賊の罪を着せたのは作中で描かれた通り。
明らかに身内に裏切り者であると示唆されています。ちなみに両者のそのうち芭墨は処刑されたと言及がありますが、霜元のその後は正頼と同じく一切触れられていません。これは黒い。一応、芭僕か霜元が漏らした相手が裏切り者だった可能性も残ってはいますけど。
しかも驍宗の行方不明を文州から王宮へ知らせたのが霜元。その霜元に驍宗行方不明の知らせを受けた芭墨から一旦戻ってくるよう命じられていたのに、しれっと文州に居続けました。
(あとになって承州に出征したはずの李斎が「 文州にいた霜元 」に「 阿選、謀反 」と報せを飛ばしましている)
考えられる可能性はふたつ。霜元が自身の意思で芭墨の命令を無視したか、実権を握った阿選が留まるよう命令しなおしたか。
いずれにしても霜元には文州に留まる理由があった。たとえば、仕留めきれなかった驍宗を捜すとか?
地位の高いものほど阿選側につく理由にもなる正頼
戴での反阿選運動がうまくいかなかった理由として、李斎は反阿選として立った者が突如として阿選についたり行方不明になって瓦解したためと語りました。まるで砂で楼閣を築こうとしているようでした、と。
李斎は知る由もありませんが、これが幻術の力なのでしょう。
ただ、幻術だけでは片付かない疑問点が、地位の高い者ほど阿選に翻る傾向が強かった点。これも正頼が黒幕であれば説明がつきます。
驍宗軍において珍しく文官ではありますが、正頼は阿選とは違い驍宗が登極前する以前からの部下。しかも泰麒の養育を任されるほど信の篤かった人物です。
そんな正頼が反阿選の組織へ接触してきたならみな喜んで迎えたことでしょう。特別警戒もしなかったはずです。
同時に、朝廷の重臣だった正頼を知る人ともなればそれなりの地位にある者が多いでしょうから、正頼と接触し幻術にかかるのは自然と地位の高い者が多い、と説明がつきます。
将軍の阿選が幻術使いな不自然さ
そもそも違和感を覚えるのが、将軍で武人の阿選が幻術使いである点。
十二国世界でも神通力・妖術の類を使えるのは自力昇仙した飛仙のみとされています。例えば慶の宝重 水禺刀の鞘を作った遠甫も自力昇仙の飛仙だし、神通力を持っているとされる(呉剛の門を開けられるっぽい)蓬山の女仙らもみな自力昇仙の飛仙。
しかし、残念ながら禁軍将軍が高位とはいえ所詮は国に任じられる地仙です。
阿選がもともと自力昇仙した飛仙であとから禁軍将軍になった可能性はあります。しかしやはり、先王時代からの禁軍将軍で見た目も用兵術も驍宗に似ているとされる阿選が幻術とは違和感がぬぐいきれません。戦士の仲間が裏切ったと思ったら黒魔術師として出てきたみたいな。どこの冒険者モモンだよ。
自然な流れでいえば幻術を見せる宝重的なアイテムを持っているか、阿選もまた黒幕に操られているか、阿選とは別に阿選とは別に幻術を使える協力者がいるか。
黒幕か協力者かのどちらかがいるとと仮定すると、後述する理由も含めて一番それっぽいのが登場人物の中で正頼。
正頼も阿選と同じく国官で地仙ですけど、実は昔から飛仙で幻術使えるって話なら武人の阿選より老文官の方が自然でしょう。ステレオタイプですけど。
そもそも阿選が幻術使いとされたのは黄昏の岸 暁の天本編ではなく、巻末にある史書での記述です。
孔始二年三月、文州に反あり。(中略)
丈阿選は禁軍右翼に在りて本姓は朴、名を高、兵を能くして幻術に通ず。非道を以て九州を蹂躙し、位を簒奪す。
『戴史乍書』
小野不由美著 新潮文庫 完全版 十二国記 黄昏の岸 暁の天より
阿選が幻術を使うと断言していますが、あくまでも史書に記された表向きの話と捉えることもできます。実は黒幕や協力者が他にいたが、歴史としては阿選の乱として片付けられたとしても不思議はありません。
阿選の動機と行動の異様さ
黄昏の岸 暁の天本編で李斎から戴の事情を聞いた延王や陽子らは、阿選が実権を握ったあとの行動に「 それでは国土の破壊だ 」と違和感を覚えています。
阿選を知る李斎自身も、戴を治めることに興味がなさそうだった、しかしただライバルへの嫉妬だけとも思えない、と訝っていました。
驍宗も実力者として阿選を厚遇したし、公私ともに親しくしていたとすら書かれています。本編で謀反を起こすまでの阿選の描き方はむしろ好印象。演技といえばそこまでですが……
その点、阿選が黒幕に操られていたり協力者がいたとすれば説明がつきます。黒幕がいれば阿選に動機は求められませんし、協力者の意志も介在していれば行動に一貫性がなくとも不思議はありません。
阿選が実行犯すぎる
さらにいえば、いかに使令をすべて引き離した状況だったとはいえ阿選自身が泰麒に手を出したのもリスクが高すぎる。
もし使令が思ったより遠くまで行ってなくて超速で戻ってきたら100%アウト。阿選がいかに驍宗と双璧をなした武人でも饕餮の相手ができるはずもなし。
そうでなくても、誰かに目撃されていればアウト。泰麒が転変して逃げても即アウト。一巻の終わりです。阿選自身が幻術で人心を惑わせることができるとして、そんな御仁が自らリスクを犯すのは少々考えにくい。
幻術がどれだけ人を操れるかにもよりますが、普通なら操った誰かに襲わせるのが自然。であれば阿選はただの実行役、少なくとものちに表向き権を握る阿選にリスクを負わせられる立場の者が別にいたと考えるのが筋です。
正頼黒幕説の要検討事項
ここまでお付き合いいただいたみなさんには申し訳ないのですが、率直なところ正頼の黒幕説には論拠が弱い点が多々あります。
- 潭翠が泰麒から離れた理由として正頼の名を出した。
- 阿選が正頼を操っていないとも限らない。
- 正頼が黒幕だとして、李斎に接触して操らなかった理由。
まず、本当に正頼が黒幕なら潭翠が泰麒から離れた理由として正頼に呼ばれたから、と答えるだろうかって点。
漣にいった面子が幻術にかかっているとすれば潭翠もグルなわけで、じゃあ正頼の名を出すのはなおさら悪手。適当な理由をつけて離れたと言った方がよかったはずです。
一応、想定外だった鳴蝕が起こったことで潭翠が正頼とともにいたところを李斎に見られたので言い訳のしようがなかったと思うことはできます(潭翠が李斎と出くわしたとき、怪我をした正頼を担いでいた)。
続いて、正頼が黒幕である可能性と同じくらい、阿選が幻術で正頼を操っている可能性もある点。否定材料が武人が幻術だなんて不自然、って個人的な意見しかない。むしろ、これなら上記の潭翠が正頼の名を出した点にも説明がつく。阿選が黒幕なら正頼が疑われても支障がないですから。
なぜ李斎は幻術でからめとられなかったか。
最後が、正頼が幻術を使える黒幕なり協力者だったとして李斎をとりにいかなかった理由がわからない。正頼は地位の高い人ほど阿選側につく現象の理由にはなりますが、であれば李斎も取り込まれてしかるべきだったはずです。
なのに李斎は取り込まず、むしろ追い立てられています。これは阿選が幻術使いにしたって謎ですけど、正頼ならなおさら李斎に接触しやすかったでしょうし、本当に謎。
おそらく、幻術にかける条件か謀反の動機の謎にも絡んでいるのでしょう。
私としては驍宗への復讐として驍宗と親しかった李斎も抹殺対象なのではないか? とにらんでいますが、単に李斎が捕まらず逃げ続けているだけなのかも。
いずれにしてもこの辺りは幻術の条件や謀反の動機が不明では推察しようがないので、あとは白銀の墟 玄の月を待つのみ。
まとめ:戴国の阿選反乱の黒幕は正頼説【十二国記】
- 泰麒襲撃時、護衛の潭翠を呼びつけて泰麒から離したのは正頼。
- 正頼のその後について一切触れられていない。
- ほかに黒幕がいないとして、動機もふくめ阿選の行動には不自然な点が多い。
- 飛仙の幻術使いとするなら、武人の阿選よりも文官の正頼の方が自然。
自分でも麒麟の尊い尻をぶつくらいしか楽しみのないじいやが国なんぞ乗っ取るものかと思うところもあるし、この考察を人様に言うのは控えていました。
けど、いよいよ白銀の墟 玄の月の発売も間近。どうせもうすぐ真相がわかるんだしいいよね、ってことで吐き出し。
ともかく、正頼なんかより怪しい私の思考能力と日本語にここまでお付き合くださった皆様に感謝。
さて、この妄想は1ミリでもかすってくれるのか。白銀の墟 玄の月 発売まであとわずか。
果たして私の尻は無事でいられるのか。この場合首を「 洗って 」が正しいのか「 長くして 」が正しいのか。
よくわからないけれど、正頼様、尻を長めに洗ってお待ち申し上げます。
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