ジオングの足は飾り? モビルスーツが人型である必要性とは【ガンダム】

2021年11月24日

深いSF考証と現実味のある世界観で、「 リアル系ロボット 」という新機軸を生み出したガンダムシリーズ。

しかしよく議論されるのが、「 兵器としてのロボットが人型である必要性はあるのか、足が必要なのか 」

それまではヒーローだったロボットを兵器として扱うようになったことが呼び水となった議論ですが……

結論から言えばモビルスーツに足は必要。足はいいものだ……偉い人にはそれがわからんのです

※正確には足じゃなくて脚。

モビルスーツに足は必要!

たしかに、宇宙では足なんかよりスラスターをつけた方が無駄な質量が減って万々歳のはず。

(せっかくドッキング方式のガンタンクがキャタピラをつけたまま宇宙戦に出かけていたのはよくわからない)

そう意味では、足のないジオングはとても合理的に見えます。

しかし残念ながら、科学的な見地からもモビルスーツに足(脚)は必要です。モビルスーツに足が必要な理由として挙げられるのが、特に次の二点。

  • 宇宙空間におけるAMBAC機動のため
  • 人型の方が人間に扱いやすい

詳しく解説します。

宇宙でこそ足を!

重力がない宇宙では、足を使う機会はそうそうなさそうに思えるかもしれません。ジオングの整備士による有名なセリフもありますよね。

「 あんなものは飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ 」

しかし実際のところ、特に宇宙においてモビルスーツの手足はAMBAC機動で役に立つものです。

AMBAC機動とは、宇宙空間上で腕や脚など可動部分を素早く動かし、反動で機体の向きや姿勢をコントロールする技術。

本来、宇宙空間で機体を動かしたり身体の向きを変えるにはバーニアやスラスターで推進剤を噴射する必要があります。

しかし、AMBAC機動なら推進剤を使わずに機体の向きを変えたり姿勢をコントロールできるのです。

推進剤が切れたら身動きが取れなくなるので当然補給が必要。しかしAMBAC機動で推進剤を節約できれば、補給なしで長く戦闘を続けられるメリットがあります。

ジオングには足が必要だった

つまり、ジオングの足も飾りじゃなくて必要だったわけです。

例のジオング整備士、リオ・マリーニ曹長もスピンオフ作品で「 ジオングは足がついたことでバランスがよくなった 」と省みています。

(マンガ 機動戦士ガンダムC.D.A.若き彗星の肖像にて)

また、ガンダムの生みの親である富野由悠季監督も著書で「 ジオングに足は必要だった 」旨の記述をしています。

AMBACはActive Mass Balance Auto Controlの略称。日本語に訳すと「 能動的質量移動による自動姿勢制御 」。

実のところAMBAC機動はアニメ ガンダムが制作された当時からあった設定ではなく、アニメ ガンダムの設定に携わる森田繁氏が、学生時代に宇宙空間におけるガンダムの手足の存在意義について考えた際に考案した架空の技術です。

しかし宇宙ステーションでの任務経験もあるJAXAの日本人宇宙飛行士 油井亀美也氏も「 手足をうまく動かすことでスラスターを吹かさずに姿勢制御ができ、推進剤を節約できる 」旨の発言をしており、AMBAC機動の説得力が増しています。

人型ゆえ動きをイメージしやすい

もうひとつモビルスーツに手足があることで生まれるメリットが、「 人型の兵器は動きをイメージして直感的に動かしやすい 」点。

AMBACと同様の機動は必ずしも腕や脚が必要なわけでなく、可動肢をつけた航空機(航宙機)でも可能です。

しかし、空気抵抗のない宇宙空間では兵器の形状に制約がほとんどありません。

ならば人型にした方が、パイロットは直感的に動かしやすく、運動性を確保できます。さらに、武器(火器や近接用武器)や盾も手持ちにすることで汎用性が高まっています。

そもそも、厳密にいえばガンダムやザクはロボットではなく「 モビルスーツ 」。あくまでも人間の動きを再現する「 スーツ 」の扱いなのです。ある意味、デカいだけのパワードスーツともいえます。

ジオンに兵なし!

モビルスーツを生み出したバックボーンには、ファーストガンダム世界の戦争観が深くかかわっています。

宇宙世紀には魔法の粉ミノフスキー粒子のジャミング効果によりあらゆる電波が遮断され、電子機器もうまく動きません。ミノフスキー粒子のために、遠隔操作の撃ち込んで終わり、ってスマートな戦争の時代は終わりました。

戦艦や戦闘機などの兵器に乗り込んだ人が直接目で確認しながら戦う有視界戦闘が主流の時代となりました。

しかし、兵士も同時主力兵器である戦艦も数のうえで圧倒的に負けていたジオンは、少ない人数で戦艦に打撃を与えられる兵器が必要とされます。

そこで生まれたのが「 人ひとりを運動性と機動性を兼ね備えた宇宙兵器にする 」発想。しかしただ人に宇宙服を着せた程度の人間が持てる武装では、連邦軍の主力兵器であるマゼラン級の戦艦やサラミス級巡洋艦に対抗できません。

そこで戦艦に通用する武器を持てるサイズまでスーツを巨大化した結果、巨大な人型の兵器、モビルスーツの形に落ち着いた、と考えれば自然です。

ちなみにシャア・アズナブルがモビルスーツのパイロットを志望したのも「 人型で直感的に動かせる信頼性 」に惹かれたためとされています。足がないジオングを与えられたとき、「 いや、俺手足があるからモビルスーツ乗ってたんだけど…… 」なんて心理があって、整備士のリオに地味な抗議をしたのかも。

初期のモビルスーツは地上では微妙?

空気抵抗と重力のない宇宙はともかく、地上戦においてのモビルスーツ、特にザクなど初期の機種はぶっちゃけクソ&クソクソな兵器だったのではないでしょうか。

劇中に出てくるもっとも雑魚機といってもいいザクでも、巨体ゆえの破壊力と威圧感はあります。しかし的はデカイ、トロい、膝など脚の間接狙われたら転んで身動き取れなくなるなど弱点だらけ。2本の脚でバランスとらないと立てないし歩けないし。あんなデカブツ、地上では整備するスペースや環境を整えるだけで大変でしょう。

戦車はともかく、F35など現代の戦闘機でも十分対応可能じゃないかと思えるレベルです。

なんなら作品によっては生身の兵士にバズーカでやられたりしてますし(IGLOO2 重力戦線や08MS小隊など)。

しかしジオンは連邦に対して軍人の数も圧倒的に少なかった。なのに地球の重力戦線も支えないといけない。微妙とわかっていても、兵士一人に少しでも大きな戦力を持たせるために地上でもモビルスーツに頼らざるを得なかったのでしょう。

空中戦ができるようになってからが本番

ただ、Z以降のモビルスーツとファーストガンダム劇中の一部モビルスーツもかなり自由に空を飛んで空中戦をやっています。

空中であれほどの機動性を確保し、地上に降り立ち歩兵の支援も可能とあれば兵器としてはかなり優秀。

空中では飛行時空気抵抗を減らす&反対に空気抵抗による急減速マニューバを可能にし、着地時にも使える足は「 飾り 」とはもういえないのではないでしょうか。

まとめ:モビルスーツが人型である必要性とは

  • 一件無駄に思えるモビルスーツの手足だが、特に宇宙ではAMBAC機動の可動肢として利用可能。
  • 人型であることでパイロットが動きをイメージしやすく、直感的に扱えるメリットもある。
  • ミノフスキー粒子によって無人兵器や遠距離誘導兵器が使えないガンダムの世界では、小回りのきく有人兵器が必要だった。
  • モビルスーツはロボというより、あくまでも人用の巨大なスーツとしての役割が強かった。