深いSF考証と現実味のある世界観で、「 リアル系ロボット 」という新機軸を生み出したガンダムシリーズ。
しかしよく議論されるのが、「 兵器としてのロボットが人型である必要性はあるのか、足が必要なのか 」。
それまではヒーローだったロボットを兵器として扱うようになったことが呼び水となった議論ですが……
結論から言えばモビルスーツに足は必要です。偉い人にはそれがわからんのです。
※正確には足じゃなくて脚。
モビルスーツに足は必要!
ニコニコMUGENwiki ジオングより ©創通・サンライズ / ©BANDAI NAMCO Amusement Inc.
ジオングにだって脚は必要です。
たしかに、宇宙では足なんかよりスラスターをつけた方が無駄な質量が減って万々歳のはず。
(せっかくドッキング方式のガンタンクがキャタピラをつけたまま宇宙戦に出かけていたのはよくわからない)
そう意味では、足のないジオングはとても合理的に見えます。
しかし残念ながら、科学的な見地からも結論からいえばモビルスーツに足(脚)は必要です。モビルスーツに足が必要な理由として挙げられるのが、特に次の二点。
- 宇宙空間におけるAMBAC機動のため。
- 人型の方がパイロットが扱いやすい。
詳しく解説します。
宇宙でこそ足を!
機動戦士ガンダム第42話 宇宙要塞ア・バオア・クーより ©創通・サンライズ。
あんなものは飾りです。
重力がない宇宙で足を使う機会はなさそうに見えるかもしれません。
作中ですら
「 あんなものは飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ 」
と言われてしまうくらい。ジオング整備士による有名なセリフですね。
しかし実際のところ、特に宇宙においてモビルスーツの手足はAMBAC機動で役に立つものです。
AMBAC機動とは、宇宙空間上で腕や脚など可動部分を素早く動かし、反動で機体の向きや姿勢をコントロールする技術。
本来、宇宙空間で機体を動かしたり身体の向きを変えるためにはバーニアやスラスターで推進剤を噴射する必要があります。
しかしAMBAC機動を使えば推進剤を使わずに機体の向きを変えたり姿勢をコントロールできるのです。
推進剤が切れたら身動きが取れなくなるので当然補給が必要に。しかしAMBAC機動を使って推進剤を節約できれば、それだけ長く戦場に留まることができるメリットがあります。
ジオングには足が必要だった
サンダーボルトバンディットフラワーより ©創通・サンライズ。
ジオング、足も造ってやれよ……
つまり、ジオングの足も飾りじゃなくて必要だったわけです。
例のジオング整備士、リオ・マリーニ曹長もスピンオフ作品で「 ジオングは足がついたことでバランスがよくなった 」と省みています。
(マンガ 機動戦士ガンダムC.D.A.若き彗星の肖像にて)
また、ガンダムの生みの親である富野由悠季監督も著書で「 ジオングに足は必要だった 」旨の記述をしています。
しかし宇宙ステーションでの任務経験もあるJAXA日本人宇宙飛行士 油井亀美也氏も「 手足をうまく動かすことでスラスターを吹かさずに姿勢制御ができ、推進剤を節約できる 」旨の発言をしており、説得力を増しています。
人型ゆえの動きのイメージしやすさ
もうひとつ、モビルスーツに手足があることで生まれるメリットが、「 人型の兵器は動きをイメージして直感的に動かしやすい 」点。
AMBACと同様の機動は必ずしも腕や脚が必要なわけでなく、可動肢をつけた航空機(航宙機)でも可能です。
しかし、空気抵抗のない宇宙空間では兵器の形状に制約がほとんどありません。
であれば人型にすることでパイロットが直感的に動かせて運動性を確保できます。さらに、武器(火器や近接用武器)も盾も手持ちにすることで汎用性を高めています。
そもそも、厳密にいえばガンダムやザクはロボットではなく「 モビルスーツ 」。あくまでも人間の動きを大きなスーツで再現する、言うなればパワードスーツに近い「 スーツ 」の扱いなのです。これにはファーストガンダムの世界での戦争観も深くかかわっています。
宇宙世紀では魔法の粉ミノフスキー粒子のジャミング効果によりあらゆる電波が遮断され、カメラを確認しながらの遠隔操作といったことができません。
そのため人が乗り込んだ戦艦や戦闘機などの兵器で人が目で見ながら戦う有視界戦闘が主流の時代です。遠くからミサイルを撃ち込んで終わりとはいかないのです。
しかし、当時主力兵器だった戦艦の数も兵士の数も圧倒的に負けていたジオンは「 人ひとりを運動性と機動性を兼ね備えた宇宙兵器 」にできる武装を開発する流れになりました。
ただ、人に宇宙服を着せた程度のサイズでは連邦軍の主力兵器であるマゼラン級の戦艦やサラミス級巡洋艦に対抗できません。そこで戦艦に通用する武器を持てるサイズまでスーツを巨大化した結果、巨大な人型の兵器、モビルスーツの形に落ち着いたのだと考えれば自然です。
ちなみにシャア・アズナブルがモビルスーツのパイロットを志望したのも「 人型で直感的に動かせる信頼性 」に惹かれたためとされています。足がないジオングを与えられたとき、「 いや、俺手足があるからモビルスーツ乗ってたんだけど…… 」なんて心理から整備士のリオに対して地味に食い下がったのかもしれません。
初期のモビルスーツは地上では微妙?
空気抵抗と重力のない宇宙はともかく、地上戦においてのモビルスーツ、特にザクなど初期の機種はぶっちゃけクソ&クソクソな兵器だったのではないでしょうか。
劇中に出てくるもっとも雑魚機といってもいいザクでも、巨体ゆえの破壊力と威圧感はあります。しかし的はデカイ、トロい、膝など脚の間接狙われたら転んで身動き取れなくなるなど弱点だらけ。2本の脚でバランスとらないと立てないし歩けないし。
戦車はともかく、現代の戦闘機にすら歯が立たなそう。率直なところ、宇宙世紀じゃなくて現代の戦闘機でも十分対応可能なんじゃないかと思えるレベルです。
なんなら作品によっては生身の兵士にバズーカでやられたりしてます(IGLOO2 重力戦線や08MS小隊など)。
しかしジオンは連邦に対して軍人の数も圧倒的に少なかった。一人一人の兵士に大きな戦力を持たせる意味でも、地上でもモビルスーツに頼らざるを得なかったのでしょう。
空中戦ができるようになってからが本番
ただ、Z以降のモビルスーツとファーストガンダム劇中の一部モビルスーツもかなり自由に空を飛んで空中戦をやっています。
空中であれほどの機動性を確保し、地上に降り立ち歩兵の支援も可能とあれば兵器としてはかなり優秀。
空中では飛行時空気抵抗を減らす&反対に空気抵抗による急減速マニューバを可能にし、着地時にも使える足は「 飾り 」とはもういえないのではないでしょうか。
まとめ:モビルスーツが人型である必要性とは
- 一件無駄に思えるモビルスーツの手足だが、特に宇宙ではAMBAC機動の可動肢として利用可能。
- 人型であることでパイロットが動きをイメージしやすく、直感的に扱えるメリットもある。
- ミノフスキー粒子によって無人兵器や遠距離誘導兵器が使えないガンダムの世界では、小回りのきく有人兵器が必要だった。
- モビルスーツはロボというより、あくまでも人用の巨大なスーツとしての役割が強かった。