アクシズ落とし阻止の三段構え、ブライトさんも作戦説明できない説【逆襲のシャア】

2019年8月29日

劇場版 逆襲のシャアで描かれた、シャア率いるネオジオン軍によるアクシス落とし。

その後半戦に向けてのブリーフィングでアムロの作戦説明を受けたブライト艦長は

「 よし、三段構えだ。ルナツーから敵の援軍が来る前にけりをつけるぞ 」

と言いました。しかしあえて言おう。ブライト艦長自身も三段構え作戦なんか説明できないと。

その作戦、三段構えじゃなくて二段構えでは?

ブライト艦長「三段構えだ。みんなの命をくれ」

映画 逆襲のシャア本編より ©創通・サンライズ。

アムロ(……ブライトのヤツ、話しちゃんと聞いてたか?)

実際、逆襲のシャアのアクシズ後半戦を観直してみても違和感がぬぐえない方が多いのではないでしょうか。どう観たって二段構えにしか見えません。

  • 核ミサイルによる核パルスエンジンの破壊
  • アクシズへ侵入し内部から爆破、アクシズを割る

強いて挙げるならもうひとつは「 艦隊攻撃によるアクシズそのものと核ノズルの破壊 」になるのでしょうけども、これは戦略目標であって作戦ではないですよね。

そもそも艦隊戦には核ミサイル攻撃も含まれるし、制圧にはアクシズへ取りついてのアクシズ内部爆発も含まれている。以下ロンド・ベルブリーフィングシーンのセリフを引用します。

トゥース「 我が艦隊はこのポイントで第二次攻撃をかけるが、アクシズはルナツーから運んできた核爆弾を地表近くで爆発させて地球を核の冬にすることもできる 」

アムロ「 だから今度の攻撃でアクシズのノズルを破壊しアクシズそのものも破壊する 」

ブライト「 ということは艦隊攻撃しかないということだ。我が方には核ミサイルは四発しか残っていない

アムロ「 だからその攻撃が失敗した場合はアクシズに乗り込んでこの部分を内部から爆破する。ここは坑道が網の目のようにあるので、アクシズの分断は可能です 」

トゥース「 そうすればアクシズの破片は地球県外に飛び出していきます 」

ブライト「 よし、三段構えだ。ルナツーから敵の援軍が来る前にケリをつけるぞ 」

映画 逆襲のシャア ロンド・ベルブリーフィングシーンより抜粋

やはり艦隊攻撃が一段目の作戦になっているようです。

しかし、そのあとすぐに核ミサイルが続くように、結局艦隊攻撃=核ミサイルに頼ったもの。ガンダムUCでパラオを直接砲撃したネェル・アーガマとは違い、ラー・カイラムにはハイパー・メガ粒子砲は搭載されていないのです。当然、麾下のクラップ級戦艦にも装備されていません。

戦略・戦術としても描画的にも、ロンド・ベルは核ミサイルよるアクシス核パルスエンジンの破壊 / アクシズ内部からの破壊工作の二段構え状態です。

実質二段構えの作戦を「 三段構えだ 」と言い張るブライト艦長に、ロンド・ベル隊員らも敬礼しながら「 はて? 」と思ったのではないでしょうか。

でもこれ、ネオジオンとの連戦にブライト艦長が疲れていたわけではありません。

小説版であるベルトーチカ・チルドレンではちゃんと三段構え

機動戦士ガンダム小説版逆襲のシャアベルトーチカ・チルドレン

bookfan Yahoo!ショッピング店より ©角川書店/富野由悠季。

小説版逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレンの表紙。

劇場版 逆襲のシャアでは事実上二段構えだったアクシズ落とし阻止作戦。

実は小説版の「 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン 」ではちゃんと三段構えの作戦で臨んでいました。

(以下小説版ベルトーチカ・チルドレンと略します)

  • Hi-νガンダムのハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーによるアクシズ核パルス狙撃
  • 核ミサイルによる核パルスエンジンの破壊
  • アクシズへ侵入し内部から爆破、アクシズを割る

小説版ベルトーチカ・チルドレンでは「 Hi-νガンダムによるアクシズ核パルスエンジン狙撃 」が作戦として実行されているのです。

ホビーサーチより「 METAL ROBOT魂 Hi-νガンダム (完成品) 」 ©BANDAI SPIRITS

ベルトーチカ・チルドレンでアクシズ狙撃をおこなったHi-νガンダム。

ハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーはHi-νガンダムの携行火器ではありますが、ものとしてはZガンダム劇中、クワトロ大尉の百式が使ったメガ・バズーカ・ランチャーのアップグレード版

ゲルググからエネルギーをもらって使用した百式のメガ・バズーカ・ランチャーに対し、ベルトーチカ・チルドレン劇中でのHi-νガンダムは戦艦ラー・カイラムから直接エネルギーを供給。ラー・カイラムのブリッジが一瞬暗くなるレベルのエネルギー供給を受けて撃っています。

最新鋭戦艦からの直接エネルギー供給で、しかもハイパーなメガ・バズーカ・ランチャーですからね。アクシズの核パルスエンジンなんぞひとたまりもありません。

狙撃結果についてはベルトーチカ・チルドレンのネタバレになるので割愛しますが、実際その威力はすさまじいものだったことだけは記しておきます。

(ネェル・アーガマが装備していたハイパーメガ粒子砲があればそれでよかったんでしょうけど、ラー・カイラムには装備されていなかった模様)

ベルトーチカ・チルドレンがベースだからこそ起こった齟齬?

小説版であるベルトーチカ・チルドレンは劇場版 逆襲のシャアの公開日と同日に発売された作品です。

しかし、実はベルトーチカ・チルドレンは映画制作に際してボツになった初稿脚本をベースにした小説で、映像化された劇場版 逆襲のシャアとは細部が異なっています。

その違いのひとつがハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーによる狙撃の有無。

初稿脚本で予定していた狙撃作戦自体が劇場版 逆襲のシャアではなかったことになっているのです。そもそも映画版のνガンダムにはハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーの武装設定自体が存在しません。

そうして作戦をまるごとひとつカットしたのに劇場版でのセリフを三段構えから変えなかったために、実質二段構えの作戦がブライト艦長本人もよくわかっていないであろう「 三段構え 」の作戦になってしまったのです。

大筋のストーリーは劇場版シャアの逆襲と同じながら、登場人物、人間関係、機体設定など細かい部分がかなり変わっています。

チェーン・アギは登場せずアムロのパートナーがベルトーチカでチェーン・アギは登場しなかったり。ギュネイ・ガスにあたるキャラ名がグラーブ・ガスでヤクト・ドーガではなくサイコ・ドーガなる機体に乗っていたり。

クェスはヤクト・ドーガには乗らず初めからα・アジールに乗ったり。ほか、クェスとハサウェイの経緯など結構大事な部分にも違いが。

これらすべて、ベルトーチカ・チルドレンは逆襲のシャア映画化に際して却下された初稿をベースにしているためです。

Hi-νガンダム? νガンダム?

本記事ではわかりやすいようベルトーチカ・チルドレンでアムロが搭乗する機体をHi-νガンダム、劇場版 逆襲のシャアで搭乗する機体をνガンダムと記載しています。

が、厳密にはベルトーチカ・チルドレンに登場するガンダムはただνガンダムとだけ呼称されています。ベルトーチカ・チルドレン版のガンダムがHi-νガンダムと呼ばれたのは実はあとになってのこと。

正確には、当時文章と挿絵のみでわずかに描かれただけだったベルトーチカ・チルドレン版νガンダムの姿をのちにリデザインしたのがHi-νガンダムなのです。

いまではマンガ版ベルトーチカ・チルドレン&各種ゲーム&プラモ化され、Hi-νガンダムとしての姿形が確立されています。

Hi-νガンダムのフィン・ファンネルもハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーもカッコいい。でも私はナイチンゲール派。

余談:いろいろある小説版 逆襲のシャア

「 逆襲のシャア 」の小説版はベルトーチカ・チルドレンだけではありません。全部で3タイトルあります。

  • 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン
  • 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(通称徳間版)
  • 機動戦士ガンダム ハイ・ストリーマー

細かい設定・ストーリーの違うベルトーチカ・チルドレンとは違い、劇場版 シャアの逆襲の設定をベースにノベライズしたのが「 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 」通称徳間版です。

劇場版で描かれていないクェスの前日談なども書き下ろしで含まれています。

この徳間版、本来は徳間書房のアニメージュ誌上で「 ハイ・ストリーマー 」のタイトルで連載された作品を加筆・修正し書籍化したもの。映画公開&ベルトーチカ・チルドレンが発売される前年に当たる1987年に発売されました。

そして、徳間版「 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 」を連載時のタイトルに戻し、新たな表紙&挿絵を久織ちまき氏が担当したのが「 機動戦士ガンダム ハイ・ストリーマー 」です。内容自体は徳間版とほぼ同じです。

(富野監督いわく、タイトルが逆襲のシャアとハイ・ストリーマーとを行き来したのは善意のすれ違いのためだったそう)

小説版の「 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 」は劇場版、後にタイトルを変えたハイ・ストリーマー、ベルトーチカ・チルドレンと混同しやすいため主に徳間版と呼ばれています。

たくさんある逆襲のシャアも実質は2作品だけ

劇場版・小説版も含めるとたくさんあってあってややこしいですけど、実際に存在する「 逆襲のシャア 」は2種類です。

  • ハイ・ストリーマー版:劇場版 逆襲のシャア / 劇場版準拠小説 ハイ・ストリーマー / 徳間版
  • ベルトーチカ・チルドレン版:初稿版小説 / 漫画版ベルトーチカ・チルドレン

たくさんあると見せかけてこのふたつだけ。3種類あると見せかけて2種類だけ。どっかの有能艦長が考えた実質二段構えな三段構え作戦みたいな?

ちなみに、2020年公開のガンダム劇場版作品でシャアの逆襲、第二次ネオジオン抗争からから12年後を描いた「 閃光のハサウェイ 」も原作として同タイトルの小説があります。

これはハイ・ストリーマー版ではなく、ベルトーチカ・チルドレン版の12年後を描く作品。ベルトーチカ・チルドレンが気に入った方は、ぜひぜひ閃光のハサウェイも。

宇宙世紀の将来と宇宙世紀初のミノフスキークラフト搭載型モビルスーツ、そして逆襲のシャア最大のやらかしマン ハサウェイの将来が描かれています。

まとめ:アクシズ落とし阻止作戦の三段構えってなんだった?

  • 劇場版 シャアの逆襲で三段構え作戦に違和感があるのは、本来あるはずだったνガンダムによるアクシズ狙撃シーンがカットされたため。
  • 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレンでは三段構え作戦のひとつとしてHi-νガンダムによるアクシズ狙撃が描かれている。
  • ベルトーチカ・チルドレンは却下された初稿をノベライズした小説版作品。