琅燦は白銀の墟 玄の月でなにがしたかったのか【十二国記 考察】

琅燦は白銀の墟 玄の月でなにがしたかったのか【十二国記 考察】

長きに渡った戴の物語が終結をみせる白銀の墟 玄の月。待ちに待ったことを除いてもたくさんの想いが去来する素晴らしい作品でした。

なかで強く引っかかったのが、作品中における琅燦の立ち位置です。

平たくいえば、琅燦は味方なのか敵なのか。乱暴な言い方、結局琅燦はなにがしたかったの?

今回はその辺の考察をば。

白銀の墟 玄の月を第一巻〜第四巻まで全巻読んでいることを前提にしています。

ネタバレを含むので、ネタバレ回避な方は白銀の墟 玄の月を完全読破していらっしゃらない方はお避けください。

結局、琅燦はなにがしたかったのか

内緒話をする女性イメージ

謎多き女、琅燦。

阿選に妖魔まで提供して謀反を起こさせしながら、泰麒を助けたり謎多き琅燦の行動。耶利の主公として語った「 私と台輔の利害は一致する 」に、私のなかの英章がどの口が言ってんだとお怒りです。

ただ、私は琅燦の行動はある程度好意的にとらえています(擁護できない面もかなり多いですが)。

結論からいえば、琅燦は天意を確かめたい自分の欲望と驍宗への忠義の両立を目指したのではないか、と考察します。

可能な限り驍宗の命を担保すべく立ち回りながら、天意を試したい自身の欲望を優先した。

琅燦の謀反参加は驍宗のためになる

そもそも、琅燦が阿選を唆して謀反を起こさせたこと自体が驍宗のためになる一面があります。

もし阿選が琅燦抜きで謀反を起こしたら驍宗はあっさり弑逆されていました。泰麒の角を斬れたのですから、角を斬って封じる発想がなければ首を斬って驍宗は崩御します。

琅燦が謀反に参画したことで驍宗の命は担保されたのです。

唆されずともいずれ……

阿選が謀反を起こした直接的なきっかけは、琅燦に次王になれない事実を聞かされたこと。しかし琅燦が唆さずとも遅かれ早かれ阿選は謀反を起こしたと考えられます。

大学出身で禁軍将軍とエリート街道まっしぐらの阿選のこと、王選に興味があるんだから琅燦が言わずともいずれ自身が次王になれないことは知った可能性は高い。そうでなくても、阿選が驍宗はすぐ斃れると踏んでいるなか、長くいい施政を敷いたらどんな行動を起こしたか。考えるまでもありません。

その点、琅燦の入れ知恵した「 驍宗と泰麒は殺さず天意の履行を凍結させる 」アイデアは驍宗の命を守る手立てとして有効でした。

また、琅燦が阿選側についておくことで、のちのち驍宗のために動くこともできます。ある意味、謀反で阿選側についたこと自体が「 驍宗を尊敬する琅燦 」としての雌伏だったといえます。

実際、白銀の墟 玄の月作中で語られた蒿里の欺瞞を援護したことも耶利を泰麒につけられたことも、琅燦が阿選側にいたからこそ可能なことでした。

阿選に謀反を唆し、助け、天意を試した

もちろん琅燦の行動すべてが驍宗のためだったとするのはいろいろと無理があります。そこには間違いなく琅燦のエゴがありました。

琅燦がなにを望んでいたかは白銀の墟 玄の月作中で本人が語っています。以下抜粋。

「台輔をあんたたちのように尊んでいないのは確かだろうね。そしてそれは王も同じ。驍宗様は敬うけれど、王だの麒麟だのはどうでもいい

言ってから、もう一度小首をかしげた。

「どうでもいい――は違うか。興味は持っている。世の摂理として」

「摂理?」

驍宗様は尊敬しているが、興味には勝てない。私はこの世界と王の関係に興味があるんだ。何が起こればどうなるのか、それを知りたい」

理解できずに阿選がただ見返していると、琅燦は自分に納得するように頷いた。

王と麒麟をめぐる摂理に興味があるが、誰も答えは教えてくれないからね。知るためには試してみるしかないんだ

小野不由美著 新潮文庫 完全版 十二国記 白銀の墟 玄の月 第三巻より。

天の摂理や天意に興味はあって驍宗だけ敬っているけれど、国・王・麒麟そのものはどうでもいい。

私はこの会話に琅燦の全てが込められているといっても過言ではないと考えています。

琅燦が阿選を唆し、天意の履行を停止させる方向で謀反を起こさせれば、驍宗の命の安全は確保しながら天意を試せる。逆に放っておけば阿選の謀反で驍宗は死ぬかもしれないし、次に天意を試せる機会がいつになるともしれない。

阿選のコンプレックスと反意に気づいた時点で、琅燦が謀反を起こすよう唆さない理由がないのです。

琅燦には国に対するモラルがない

いくら驍宗のためとはいえ、普通なら泰麒の角を斬る前提の計画は立てられません。蓬莱人からみてもあまりに畏れ多い。しかし琅燦は黄海出身の黄朱の民です。どの国にも帰属しません。

犬狼真君や黄海にある黄朱の里木に対してなら思うところもあるでしょう。しかし十二国の埒外に生きる彼らに、国のシステムに対する義理は全くありません。

権がなければ責もないとは李斎の言葉。琅燦は国官だったんだから責もあってしかるべきですけど、実際琅燦が抱いていたのは驍宗への尊敬の念と天の摂理への興味だけ。琅燦は責任よりも自分のエゴを貫き通したといえます。

その驍宗の命を担保でき、なおかつ自分の興味をそそる題材が目の前にある。なら、阿選に麒麟の角を斬らせるのに躊躇する理由はない。

琅燦にとっての泰麒は黄昏の岸 暁の天から一貫して「 とんでもない化物 」として、興味の対象としていることもわかっていますし。極端な話、琅燦や耶利ら黄朱の民にとって、神獣 麒麟も少し特殊な獣程度の認識でしかないようにも感じられます。

阿選が勢いあまって泰麒を殺してしまい、驍宗が死ぬような顛末だけは心配だったかもしれませんが、そこは驍宗様も好敵手として認めた禁軍将軍の腕を信じるしかない。

王や麒麟に対する尊崇のなさは、同じく黄朱の民である耶利からも読み取ることができます。耶利は最終盤、絶望的な状況のなかでも驍宗のもとへ走ると決めた泰麒を最後にはその手にかける覚悟を決めていました。「 多分、これは黄朱にしかできない 」として。

これは無念に打ちひしがれる驍宗と泰麒に対する介錯です。しかし同じ状況にあって李斎や項梁が泰麒に手をかけられたかといえば怪しい。

その点、耶利ら黄朱の民がいかに麒麟や王に対しての尊崇を持ち合わせていないと伺い知れます。

完全に余談ですけど、王はどうでもいいが驍宗は尊敬する琅燦 / 麒麟はどうでもいいが蒿里は尊敬する耶利が対になる相似的な組み合わせって、双方で主従は似るものかと思えてとてもエモーショナル。

それと別に計都と似ているのが英章なのもとてもハートウォーミング。

どちらかといえばエゴ優先

琅燦が謀反に加担することが多少なりとも驍宗のためにになるとはいえ、擁護できない面も多々あります。

特に黄昏の岸 暁の天で李斎が出した「 阿選、謀反 」の報せを阿選に密告した点では全く擁護できません。

琅燦が真に驍宗を想うなら、この時点で驍宗麾下と協力して阿選を倒すことで引き返すことはできたはずです。謀反の露見を知らんぷりするだけでも驍宗に利することはできました。

「 驍宗様は尊敬しているが、興味には勝てない 」はやはり本音だったのでしょう。阿選ほどの実力を持った謀反人が今後現れるとは限りません。より如実な天意の表れを見るために、まだ阿選の謀反が潰えてもらうわけにはいかなかった。

そのために多くの人々が犠牲になることは明白でした。とはいえ、琅燦自身も自分がこうすることで驍宗が危険な目にあい、多くの麾下らが死んで驍宗が悲しむこともわかっていたはずです。

しかし、他者を犠牲にしてでも生き残るべき者が生き残るべき、と考える黄朱の民である琅燦としては、驍宗麾下が犠牲になることはぶっちゃけどうでもいいぐらいにしか思っていなかったのではないでしょうか。

そうしたことで驍宗に嫌われそうなこと、恐らくもう驍宗麾下には戻れないことは理解したうえで、「 私が唆すに決まってる状況を作った阿選が悪い 」ぐらいの考えで阿選を責めているのでしょう。阿選からすればただの八つ当たりでたまったものではないですが。

霜元が裏切らないから

残念ながら驍宗麾下の裏切り者がほかにいない以上、消去法で「 阿選、謀反 」の密告者=琅燦ってことに。

実のところ阿選を唆し鳩妖魔の次蟾を提供したところまでは、驍宗は驍宗麾下らに対して言い訳のしようがあります。

謀反を起こすにおいて偽王がもっとも警戒しなければならないのが偽王への自浄作用となる各州州侯です。本物の麒麟を背後に侍らせても王宮に入れなかった慶の偽王 舒栄の例からも、泰麒を捕えても州侯らが納得しない可能性も考えられます(一応、舒栄の乱は阿選の謀反よりあとだけど)。

その点、次蟾で州侯を黙らせる案は完璧なプラン。

琅燦としては驍宗を殺さない方向で謀反を起こしてもらう必要があったので、阿選に次蟾を見せて納得させたのだと言い訳がたちます。

例え次蟾が阿選の手に渡っていても、驍宗が落盤で拘束された時点で文州にいる英章らに居場所を伝えて救出してもらえば問題なかった。

しかし「 阿選、謀反 」を密告した時点で、もはや琅燦は擁護できないレベルにまで謀反に足を突っ込んだことに。

その点、密告した裏切り者が霜元だったら琅燦の評価はかなり変わるんですよね。本当に密告してないのかなぁ、霜元(チラッチラッ

想定通りに運ばなかったことこそ天の配剤?

結局、想定外の鳴蝕と烏衡の雑な仕事によって泰麒も驍宗も幽閉できず。

阿選にとっても痛手でしたが、全く手出しできなくなった点では驍宗を敬う琅燦としても胃が痛かったのではないでしょうか。

しかし、天意を試したい琅燦のエゴ的観点からはテンション爆上げ、内心ガッツポーズな展開だったはずです。

白雉が落ちていないので驍宗の生存はわかる。しかし阿選が完全に戴を支配しつつあるこの絶望的な状況で、とても無事とは思えない驍宗と泰麒がどのように阿選に抗うのか。

図南の翼で犬狼真君が言った「 怪我人がいる、わたしはいない、だから妖魔はこない 」の理屈でいけば、驍宗や泰麒がここからひっくり返すためにはそれこそ天意としかいえない奇蹟が起こるものと期待したはずです。

驍宗が死なない確信もあったのではないか

琅燦と比べるととても知識人とは思えない頑丘(図南の翼)ですら、犬狼真君に出会った際には天意についてはある程度意を得ていたようでした。やはり昇山に付き添ったり天の埒外にある妖魔と日々を過ごす黄朱の民は、天意や天の加護について明るいのでしょう。

その点、琅燦は天意を試したいと言いつつも、驍宗が天の加護によって死なないとある程度確信があったと考えます。

琅燦が阿選を唆して命はとらないよう手を尽くしたのもありますし、正当な王である驍宗を天が見放す道理もない。ましては琅燦からみれば尊敬する驍宗のこと、天に見放される程度の人物とは考えない。

ある意味「 天の加護があるなら驍宗が死ぬわけがない 」→「 だからなにしてもいい 」なんて、とんでもない信頼(と思い込み)のうえに立って琅燦の計画がスタートしたとも考えられます。完全にサイコパスっぽいけれど。

むしろ天の加護が積極的に働いて驍宗の命を守ろうとするはずです。実際、天の配剤としか考えられない僥倖によって驍宗は騶虞を下し、崩落現場からの脱出に成功しています。残念ながら琅燦がそのいきさつを知ることはできませんが。

(その点、土肥の報復に震える里を見捨てたあとの馬州では天の加護が翳ったか、かなり危なかったように思えるけど)

琅燦が泰麒の味方につきはじめた理由

「 阿選、謀反 」の報せを阿選に密告する、妖魔を提供するなど、心情はともかく状況的には完全に阿選の味方をしてきた琅燦。

しかし白銀の墟 玄の月作中では琅燦は帰還した泰麒の味方として振る舞いました。阿選に天意があるとの泰麒の欺瞞を援護したり、次蟾を駆除できる耶利を大僕として送り込んだり。

この時点で、天の摂理を試したい琅燦としては天意を見るための舞台が整ったと判断したと考えていいでしょう。同時に驍宗を敬う琅燦にとっても驍宗の命そのものでもある泰麒は保護対象です。

6年前は阿選の味方をしない理由がありませんでしたが、今度は泰麒の味方をしない理由がありません。

本来、琅燦としてもここまで長期間に渡って一切の舵がきかず、膠着した状況も不本意だったと推測できます。6年間、ただ阿選が民を虐げるだけで特に面白い展開もなし。

そうでなくとも驍宗を敬う琅燦としては「 驍宗様のもの(玉座)を盗みやがって 」「 驍宗様の命を危険に晒しやがって 」「 あーっ、くそ驍宗様の民まで虐げてるし! 」といった多少ながら忸怩たる想いもあったでしょう。

それに加担していたのは間違いなく天の摂理を試したい琅燦なんですが、「 私が天の摂理を試したくなるような状況を作ったんだから阿選が悪い 」ぐらいには思っていそう。

そんな折、白圭宮に泰麒が帰って来た。きたよきたよ、これは嵐がくるよ!

琅燦、6年ぶり二度目のガッツポーズ。

しかも泰麒は(琅燦からみれば)明らかな欺瞞をぶっこんできたし、やはり麒麟とは思えないとんでもない化物です。これには琅燦もご満悦。

しかしもともと泰麒の命は狙っていなかった阿選は無害にせよ、偽朝の臣である張運や士遜のような阿呆や阿選の麾下がなにをかしでかさないとも限りません。泰麒の帰還自体が天意じみているし、いずれにせよ泰麒の命=驍宗の命なのだから、最低限でも守る必要性は感じたのでしょう。

その点、阿選を王と言い放つ泰麒の欺瞞はトリッキーながら有効な手。これを白圭宮の全員に納得してもらえれば問題なし。さすがに誓約しろとか叩頭しろと無理は言えないから、阿選には腕を斬らせた。

多分、叩頭しろと言われても「 驍宗が禅譲しないと無理 」と逃れただけでしょうけど、それでは張運らが納得しないリスクが残る。琅燦のファインプレーです。さすが驍宗麾下の幕僚は黄朱の民は頭の回転の速さが違う。

また、次蟾対策としていち早く気づき駆除できる耶利を大僕として遣わしたことにも得心がいきます。

最後に計都を送り出した琅燦の心境

登場人物だけでなく戴すべての人々にとって運命の日だった、驍宗が鴻基でさらし者にされるあの日。

琅燦にとっても、真の意味で天の摂理を目の当たりにできる運命の日でした。驍宗側にとってはかなり絶望的な状況ですが、絶望的であればあるほど天の加護は奇跡的な形でやってくるはず。

琅燦がエゴ的であればあるほど手出しなどしようはずもありませんし、琅燦に驍宗を敬う気持ちがあってもいまさらできることもほとんどなかったでしょう。もしかしたらその精一杯が、いつでも計都を出せるよう鞍をつけた用意しておくぐらいだったのではないでしょうか。

さて、いざ当日を迎えてみれば麒麟は自ら兵を斬るわいまさら転変してみせるわ驍宗載せて逃げるわ。

心ある戴の民にとってはこれ以上はない奇跡で、琅燦にとってはこれ以上ない天意の表れです。

驍宗も無事助かりそうだし、さすがの琅燦も満足したのではないでしょうか。ここで三度目のガッツポーズ。

ならもう大っ嫌いな阿選のもとで謀反のアドバイザーごっこをする必要はない。しかし戴にとって琅燦が大罪人であることには違いありません。だから驍宗陣営に戻れるはずもなく、クールに去るぜ。

最後に計都を連れ出しのが乗って逃げるためなのか驍宗の元に返すためかは不明です。ただ、いくら長いこと一緒にいたとはいえ計都が驍宗以外を乗せるとも考えにくいので、やはりいざというときに驍宗のもとへ飛ばせるよう準備だけしておいたのでは、と考えます。

琅燦が逃げたいだけならほかの気難しい計都ではなくほかの騎獣でもいいわけですし。黄朱なんだし三公なんだしその気になれば自分用の騶虞ぐらい手に入れられるでしょうし。

そうして混乱のさなか、準備しておいた計都を連れ出してみれば。

ふらふらと落ちる黒麒の影。

ああ、と天意を得る。琅燦は手綱を離す。

あとは描かれた通りです。

まとめ:琅燦は白銀の墟 玄の月でなにがしたかったのか考察

  • 王・国・麒麟へのモラルがない黄朱の民 琅燦にとって、戴に恩義があるのは驍宗のみ。
  • 琅燦が阿選に提案した天意の履行を凍結する謀反は驍宗の死を防ぐ策にもなった。
  • 同時に、琅燦は自身の天意を試したいという自身をエゴを叶える手段にもなる謀反にためらう理由がなかった。

琅燦の思惑ついて想像たくましくできるのもここまで。なにとぞ抜群に面白いとまでは言わずとも、ほんの少しでも面白いと琅燦に笑ってもらえれば幸いです。

しかしこうして考察してみるとよくよく自分に正直でエゴの強い女性。黄朱だからなのか本人の性格か、奔放にもほどがありますね。

にしても、玄管のことも含めていまいち曖昧なままな気がするし、2020年発売の短編集では別視点から白圭宮内部や琅燦のことを描いた話とかあったらいいなぁ。

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